本研究課題は、格子QCDの数値計算によって、Hダイバリオンの存在を理論的に探る研究である。初年度にはクォーク質量が縮退したフレーバー対称極限と呼ばれる世界を調べ、クォーク質量のある領域で安定なHダイバリオンが存在する確証を得た。この成果はバリオンとメソン以外にハドロンが存在する事を世界で初めて実証した快挙であり、Lattice Field Theory (Lattice 2011) や Particles and Nuclei (PANIC 2011) など、多くの国内外の会議で高い評価を得た。また、この成果を公表した論文は物理の世界で最も権威ある Physical Review Letters 誌に掲載され、さらにその巻のハイライト論文にも選ばれた。本成果を受けて J-PARC 等の施設でHダイバリオンを見つける実験が提案されるなど、ハドロン物理学界に大きな影響を与えている。 本年度は、クォーク質量の小さいフレーバー対称世界、すなわちカイラル極限において、Hダイバリオンの存在とその束縛エネルギーを調べた。その結果、束縛エネルギーは小さくなるが、安定なHダイバリオンは存在する事が分かった。その数値計算に、筑波大学のスーパーコンピュータシステム T2K-Tsukuba の一般共同利用枠を使用した。その2ヵ月の利用料として、約67万円を当助成金で支払った。また、7月にドイツで開催された格子QCD業界で最大の国際会議 International Symposium on Lattice Field Theory に参加し、研究成果の報告と、ライバル研究者の進展状況を調査を行った。その旅費と参加費を当助成金で支払った。
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