研究課題/領域番号 |
23540326
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
夏梅 誠 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 研究機関講師 (90311125)
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研究分担者 |
岡村 隆 関西学院大学, 理工学部, 教授 (30351737)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2017-03-31
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キーワード | 素粒子論 / 超弦理論 / AdS/CFT双対性 / ブラックホール / 流体力学 |
研究実績の概要 |
本研究では,超弦理論のAdS/CFT双対性を用いてQCDや強相関の物性系の解析,特に非平衡現象の解析を目的としている.これらの系では強結合の物理の理解が必須であるために,理論的な計算はこれまで困難であった.AdS/CFTによると,強結合の場の理論はブラックホールと等価であるため,ブラックホールを使ってこれらの物理の解析が可能になった. これまでの研究をもとに,この2年ほどAdS/CFTとその応用について英語教科書の執筆に取り組んでいた.本教科書は著名な"Lecture Notes in Physics”のシリーズとして出版された.このシリーズからの出版には,通常の書籍プロポーザルのレビューだけではなく,Editorial boardからのプロポーザル承認および実際の原稿を査読した上での出版承認を要する.その意味で出版にはハードルが高く,幸いにして高い評価を得た. さて,AdS/CFTで非平衡現象を解析する上で一つの問題は,AdS/CFTを使っても解析的な計算は一般に困難だという点である(「今後の研究の推進方策」参照).そこで,数値計算の準備を進めてきた.一例として,以前より取り組んできた「ホログラフィック超伝導の増強」について数値計算を行なった.ホログラフィック超伝導は,AdS/CFTで知られているブラックホールの一種で超伝導を起こす. 時間依存する外場の下では,超伝導が増強され転移温度が増大することが知られている.これが高温超伝導体で起これば,室温超伝導が実現する可能性もある.これまでの我々の解析的計算では,超伝導の増強は認められなかったが,より広範な条件下でも超伝導の増強は認められないことを数値計算で確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「研究実績の概要」でも述べた著書の執筆に予想外に時間を取られてしまい,研究自体についてはあまりエフォートを割けず,遅れぎみである.
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今後の研究の推進方策 |
本年度は,主に2つのテーマでの研究を予定している: 1)ミクロな立場からの二次流体力学の導出:AdS/CFTの重要な応用として,クォーク・グルーオン・プラズマ (QGP) の流体力学的解析がある.たとえばQGPの輸送係数の一つ,ずり粘性率の値がAdS/CFTによって予言され,RHICやLHC実験と良く一致する. この際,通常用いられている「一次流体力学」にはさまざまな問題があり,「二次流体力学」を使う必要があることが知られている.AdS/CFTは,二次流体力学についてもさまざまな知見をもたらしてきた. 流体力学はマクロな理論であり,ミクロな立場(ボルツマン方程式など)から導出できるはずである.しかし,二次流体力学については,この点は完全には決着がついていない.そこで,ミクロな立場から出発して,二次流体力学の導出を試みる.特に,ミクロな立場からの導出が未知である輸送係数について導出を試みる.
2)線形応答を超えた非平衡現象:AdS/CFTでは,様々な系で非平衡現象が議論されてきたが,主として外場に対し線形的な効果,かつ断熱的な外場の場合が多い(線形応答).より一般的な非平衡現象として,(1)外場に対する非線形効果,(2)外場が非断熱的な変化をする場合(時間依存する外場,クエンチ),(3)外場に空間依存性がある場合,が考えられる.近年,物性の立場でもAdS/CFTの立場でも,これらの現象に注目が集まっている.26年度での数値計算の準備を踏まえ,数値計算を通してこれら非平衡現象を本格的に調べる.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じたのは,主に様々な事情から当初計画していた国内・海外出張の遂行を断念したことによる.また,物品調達が当初の見込みより安価に調達できた.
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次年度使用額の使用計画 |
保留にしていた出張を通して,同様の研究を行なっている研究者から最新の成果について学び,我々の得た結果を発表する.また,AdS/CFTではさまざまな分野が関わっているので,他分野での情報収集にもあたる.
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