(1)AdS/CFTでのKibble-Zurek機構: 二次相転移を起こす系を急冷すると,位相欠陥が自発的に生成される.例えば,超伝導では渦糸(vortex)がそれにあたる.系を急冷することで対称性が破れるが,空間的に隔たった領域は違う状態を取りうるからである.相関が保たれる典型的なサイズは,スケール則に従うことが知られている. AdS/CFTでも,このKZ機構は調べられているが,困難な数値計算によるものであり,結果そのものに対する物理的理解も進んでいない.そこで,我々はスケール則をAdS/CFTの立場から(1)解析的に(2)比較的容易な議論で導出した.通常の場の理論では,このスケール則は系の対称性を用いて理解することができる.AdS/CFTでは,重力系を解くことで強結合場の理論を解く.したがって,AdS/CFTでも,本来重力系の対称性からスケール則を理解できるはずである.しかし,重力系の場合,その対称性はあらわには見えず,emergentな対称性であることが判明した. (2)背景流のある超流動の不安定性: 超流動流の不安定化機構には,素励起不安定性と渦生成不安定性がある.異なる機構にもかかわらず,それらは動的な密度揺らぎの増大を通じて統一的に理解できることが,弱結合希薄ボーズ系に適用可能なグロス・ピタエフスキー(GP)方程式を用いて指摘されている.強結合する凝縮場でも同様の性質が現れるか,AdS/CFTで調べることは興味深い.そこで渦生成不安定性を念頭に,渦生成の引き金となる障害物ポテンシャルをもつホログラフィック超伝導を解析した.まずGP方程式の場合と同様,超流動流不安定化がサドル・ノード分岐型であることを明らかにした.そして,凝縮場の動的揺らぎへの障害物ポテンシャルの影響を詳細に調べた.
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