研究課題/領域番号 |
23540327
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
郡 和範 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 研究機関講師 (50565819)
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キーワード | 国際研究者交流 / アメリカ / イギリス |
研究概要 |
長寿命の荷電重粒子(CHAMP)は、宇宙年齢が100 秒以降の宇宙初期に、軽元素との束縛状態を作ることが知られている。今回はCHAMPが数世代存在する、より具体的な素粒子モデルを調べた。そして、そうした世代間混合がビッグバン元素合成に与える影響を明らかにすることに成功した。CHAMP とその崩壊によって作られる中性のダークマター粒子との質量差が100MeV程度であるとき、始原ベリリウムの量を、束縛状態特有の反応により破砕し、観測値に合うように調整してくれる。CHAMP の具体的な理論モデルの候補として、超対称性理論に現れる、100GeVから数TeVの質量を持つ3世代荷電スカラーレプトンが考えられている。今回の成果はそれら荷電スカラーレプトンの世代間混合の情報を得たことに相当する。この結果は英文の査読付き専門誌(Kohri et al,Phys.Rev. D86 (2012) 095024, arXiv:1208.5533 [hep-ph]) に論文として発表した。 また、長寿命のCHAMPが存在した場合に、電磁的にプラズマに結合するため密度揺らぎの成長を阻害するという不思議な現象が予想されている。その銀河・銀河団などの大規模構造に与える影響を調べるためにN体シミュレーションを行った。この効果によりP作られる矮小銀河の数を観測される量にまで抑える機構として働くことを確認し、その条件をもとめた。これは一般的にN体計算の予言では矮小銀河の数が観測より多すぎるという問題に解答を与える可能性がある。この成果を英文の査読付き専門誌に論文(A. Kamada etal, 2012 JCAP in press, arXiv:1301.2744[astro-ph.CO]) として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
達成度は80%である。 2つのテーマを研究の柱としてきた。一つ目は長寿命の荷電重粒子(CHAMP)が元素合成に与える影響の精査。二つ目はCHAMPが銀河・銀河団などの大規模構造に与える影響を精査することである。一つ目のテーマについて、本科研費が始まるまえから取り組んできたテーマであるので、これまでの研究の延長として順調に年1本のペースで論文発表をしてきた。2つ目のテーマについて、【研究実績の概要】にも触れたように、本年度にようやく論文にまとめる顕著な成果が出たことが大きい。これはN体シミュレーションの専門家に共同研究をお願いしたことにより進展したためである。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は最終年度にあたるので、これまで得られた成果をまとめる論文の執筆の活動が中心となる。目標としていたのは、長寿命の超対称性荷電粒子が、宇宙論に与えるあらゆる影響について精査し、現在得られている観測を使って、その性質を制限することである。そして、得られた制限を満たす理論のモデルパラメーター領域を使って、その背後にある未知の理論を探る足がかりにする。 具体的には、観測に抵触しないように、寿命と初期宇宙での存在量という性質について、制限を加える。使う予定の観測は、宇宙背景放射、銀河・銀河団などの大規模構造、ライマンαクラウドの個数分布、ビッグバン元素合成時の軽元素量である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額が発生した状況: 購入予定だったコンピューター周辺機器の発売が遅れたため、次年度使用に回します。 翌年度分として請求した助成金と併せた使用計画:主に海外への渡航費が中心になる。 フィンランド・ヘルシンキ国際会議参加 400,000円, 台湾国際会議参加 300,000円 残りを計算機の周辺機器に使う予定である ソフトウェア 200,000円, その他小物 200,000円
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