研究課題/領域番号 |
23540328
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
石川 正 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 計算科学センター, 准教授 (90184481)
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研究分担者 |
安井 良彰 東京経営短期大学, 経営総合学科, 准教授 (50389839)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 素粒子物理学 / 摂動理論 / ファインマン・ダイアグラム / 精密測定 / 計算科学 |
研究概要 |
2ループ・ファインマン積分の定式化については、電弱理論におけるg-2に関してファインマン・ダイアグラムは1780個あり、2ループのファインマン・ダイアグラムは14種類のトポロジーに分類される。バーテック型散乱振幅が中心である。それぞれのトポロジーに対して、次元正則化により、紫外発散部分と有限の部分の式を取りだすことが必要である。ベクトルボゾンの3点結合など含む標準模型で出現するファイマン規則を一般的に処理できるよう数式処理プログラム開発を行っていて、検証を行っている。現在のシステムでは他の崩壊プロセスにも適用可能である。1ループと繰り込まれた頂点を持つ2ループグラフについても1ループとして計算可能な数式処理プログラムを開発した。繰り込みはon-shell繰り込みを用いており、紫外発散などの数値計算により検証を行っている。QEDのグラフに関しては、数値積分をして収束性について、数値的にしていると同時に、高速化についてプログラム開発を進めている。本解析で特に重要な役割を担うのが非線形ゲージ固定の導入である。2ループ・ファインマン振幅の解析を行う場合、全てを代数的な数式処理で行うことはできない。このためコンピュータを用いた数値計算が不可欠となる。一方、数値計算が正しく行われていることを証明することは極めて困難である。本解析では非線形ゲージ固定と呼ばれるゲージ固定を導入し、ゲージ不変性が保証されていることを数値的に示すことにより、我々の計算精度が保証されていることを定量的に評価する。この非線形ゲージ固定の2ループへの定式化に関しては、任意のゲージ変数でのファインマン・ダイアグラムとファインマン振幅の計算コードが自動生成可能になっており、先にも述べた崩壊プロセス等での検算により、システムが正しく動作していることを確認した。また非線形ゲージを用いた場合の繰り込み項の整備を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究のベースとなっているGRACEシステムは、電弱相互作用1ループの自動計算システムとしては既に完成しているが、2ループ解析に向けた発展的応用には多くの修正改良が必要である。特に2ループ・ファインマン積分をシステムに組み込む為に、ファインマンルールと積分ルーチン部分の仕様変更を行った。このため計算コード内の変数名の再定義等が必要となり、これらの書き換えと確認作業に時間を要した。数値解析に関しては、電弱相互作用の解析を進める前に、より簡単なQEDでのテスト解析を行っている。しかしながら数値積分に不安定性が残っており現在も原因究明が続いている。また電弱相互作用に拡張するにはQEDでは現れないトポロジーのファインマン積分が必要であるが、システムがこれらの積分に必要な処理を網羅しているか確認作業に時間を要している。特に数値計算の検証をする上で問題になっているのが、ファインマン・ダイアグラムの数である。g-2に関してファインマン・ダイアグラムは全部で1780個あるが、数値積分の安定性検証やシステムの動作確認等の為に全てのダイアグラムを計算すると莫大な時間がかかる上、問題の原因究明も極めて困難になる。1ループ解析の場合はゲージ不変性や紫外発散/赤外発散の相殺などの性質を使って個々のファインマン振幅を分類別けすることが容易に出来たが、2ループ解析ではこの分類別けが難しく、検算作業に多くの時間を要している。
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今後の研究の推進方策 |
粒子g-2に対する電弱相互作用2ループの解析を進める。μ粒子g-2の解析は、物理的にも重要な意味を持つことは勿論であるが、2ループの自動化システム(GRACE-2LOOP)における積分ルーチン開発の試金石であるとも言える。さらに繰り込みに関する研究を進める。摂動の高次補正解析には繰り込みによる紫外発散の処理が必要である。一方、非線形ゲージを用いるとゲージ不変性のチェックは容易になるが、ラグランジアンの構造は線形ゲージより複雑なものになる。従って紫外発散相殺項の扱いもより複雑なものである。そこで繰り込み処理の自動化により人為的ミスの入り込む余地をなくすことを考える。繰り込みの自動化は1ループ・レベルの解析で既に実用化されており、超対称模型での1ループ計算に応用されている。そこで同様の手法の2ループの自動化システムへの導入を進める。モデルファイルの改良を安井が、数値的解析を石川が担当する。2ループ・レベルのファインマン振幅の繰り込みは、先の非線形ゲージ固定の定式化が正しく行われているかの検証にもなっている。昨年度は、2ループの自動化計算システムのための問題を抽出してまとめて、システムの全体的な設計図は出来たところである。系統的な方法でシステムの開発を進め、紫外発散の相殺、非線型ゲージによる検査など、随所に数値検査を行えるような仕組みも入れた数値検査を行うことにより、システムの信頼性を高め、g-2の全グラフの計算について着手し、数値結果を出すことが目標である。なお、非線型ゲージの2ループの定式化についてはこの研究の特色でもあり、他の研究者との研究交流も重要であると考える。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度、必ずしも十分とは言えなかった、研究打ち合わせについて、前年度の未使用額も使用して、研究打ち合わせを進める。システムの設計図は出来上がったので、既に進んでいるが、詳細の仕様について打ち合わせをしながら、プログラム開発を進めて行く。世界的には、1ループ・レベルでの自動計算システムはいくつかのグループで研究がすすめられているが、2ループの自動計算システムに関しては、部分的な道具としてのプログラムは存在するが、全体システムとしてのものはないと思われる。また非線型ゲージの取り込みなど海外の研究者との情報交換も重要であり、調査を行う予定である。g-2の数値結果や非線形ゲージの定式化などを含めて、研究開発の段階であっても進捗状況については、国内の学会等で成果を発表する。
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