研究課題/領域番号 |
23540329
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
磯 暁 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 教授 (20242092)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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キーワード | ブラックホール / ホーキング輻射 / 非平衡熱力学 / ウンルー効果 |
研究概要 |
この研究の目的は、地平面をもつ時空の熱力学的性質について、非平衡物理学の手法を援用し理解を深めることにある。平成23年度は、特にブラックホールや加速運動する観測者に付随する熱力学的な性質を議論した。ブラックホール地平面近傍では、その因果的な性質によりエネルギー運動量テンソルが古典的には一方方向の流れしかもたない。外部の観測者にとってはこの一方向性が熱の散逸として理解される。これを表す有効理論としてメンブレンパラダイムが知られている。この系を量子化すると、ホーキング輻射が発生し、その効果は量子的な熱揺らぎとしてメンブレン作用に対する補正を与える。今年度は、この熱揺らぎを取り入れることにより確率微分方程式(ランジュバン方程式)を導出し、古典的な入射波境界条件が変更を受けることを明らかにした。またこの方程式に「揺らぎの定理」を適用することで、ブラックホールエントロピーの増大則を導いた。(平坦な)時空を加速運動する観測者も、因果的な性質から地平面をもち、それが熱搖動として観測される。またブラックホールの場合と同様に、地平面からの熱散逸をもち、これらを表す方程式が、ALD方程式である。この方程式は、発散解や前加速などの非物理的な性質をもつことが知られている。私は、質量をもった輻射場を考えることで、ALD方程式がどのような変更を受けるのかを解析した。その結果、質量が消える極限が非解析的な極限となっていることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の当初の研究計画は、ブラックホール時空での地平面付近の場の振る舞いを、確率微分方程式を用いて明らかにすることにあった。この計画どおり、エネルギー散逸とホーキング輻射を通したノイズの両方をもつ確率微分方程式(ランジュバン方程式)の導出に成功し、それに対して「揺らぎの定理」を組み合わせることで、一般化されたブラックホール熱力学第二法則を導出することができた。また次年度以降の計画であった加速運動する観測者の問題に関しても、ある程度の成果を得ることができた。これらから研究の達成度は、順調と判断される。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は、当初の計画どおり、ブラックホール時空での熱力学を確率微分方程式を用いて遂行し、その方程式に、非平衡物理学の手法を用いて、地平面の揺らぎなどの理解へとつなげていきたい。また加速運動する観測者の熱力学的性質、特に散逸と揺らぎの関係、についても研究を進め、ALD方程式の病的ふるまいの解決や、熱力学から出発して時空の方程式を導出するというJacobson 流の解釈についての研究を進める。特に、来年度は、加速運動する観測者に対する熱力学のクラウジウス関係式から出発することでアインシュタイン方程式が導出されるというJacobsonの考え方を一般化し、曲がった時空でのウンルー温度の定式化など、時空の熱力学の理解をさらに深めていきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
これらの研究を遂行するために、国内および国外への情報収集、共同研究のための旅行を何回か行う予定でいる。昨年度は予定していた海外での情報収集のための旅行が、他の用務のためにキャンセルとなり実施できなかった。そこで今年度は、昨年予定していた海外旅行を計画している。国内は、研究打ち合わせ旅行を3回ほど、成果発表のための旅行を2回、また国外へも情報収集のための旅行と研究打合せの旅行を1回ずつ行う予定でいる。これ以外に、関連する書籍の購入を10万円ほど予定している。
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