研究課題/領域番号 |
23540329
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
磯 暁 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 教授 (20242092)
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キーワード | 時空の地平面 / ブラックホール / ウンルー効果 / 粒子生成 |
研究概要 |
この研究の目的は、地平面をもつ時空の熱力学的性質について、非平衡物理学の手法を援用し理解を深めることにある。平成24年度は、特に時空の熱力学や加速運動する観測者に付随する熱力学的な性質を議論した。 ブラックホールは、場の量子化を行うと有限温度のホーキング輻射を放出する。このこととアインシュタイン方程式を結びつけると、熱力学の3法則が導出できる。T Jacobsonはこれを逆手にとって、熱力学法則からアインシュタイン方程式を導出した。24年度は、この導出を再検討し、非平衡な時空、すなわち膨張率(expansion)が0の時空へ一般化した。この一般化において、熱の流入に伴うエントロピーの流れや、局所温度を考え直すことが重要であることを明らかにした。またこの一般化からJacobsonの最初の論理の誤りを見つけた。さらにネータ電荷の方法の熱力学的に解釈を与えた。 (平坦な)時空を加速運動する観測者も、因果的な性質から地平面をもち、それが熱搖動として観測される。またブラックホールの場合と同様に、地平面からの熱散逸をもち、これらを表す方程式が、ALD方程式である。この熱搖動からの輻射は、ウンルー輻射とよばれ、高強度レーザーを使った検証実験が計画されている。私は、真空揺らぎとの量子相関を正しく計算すると、ウンルー輻射の多くが干渉項により相殺することを見つけた。また、この相殺の機構が、熱力学平衡条件であるKMS条件と密接に関係していることも示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
24年度は、ブラックホールの地平面を一般化し、加速運動する観測者が見る時空そのものの地平面を考え、これと時空の熱力学の関係を議論した。また、加速運動する物体が放射するウンルー輻射の相殺機構が、地平面の内側と外側では異なっていることを明らかにした。このことは、観測者に依存する地平面も、何らかの物理的な意味をもっていることを示唆しており、とても興味深い。
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今後の研究の推進方策 |
研究のもっとも大きな目的は、ブラックホールの地平面の振る舞いを理解することで、ブラックホールの情報喪失問題、および時空そのものの起源と熱力学的な性質を理解することにある。また加速運動にともなうウンルー効果と、加速運動する観測者の従う揺らぎの方程式であるALD方程式の理解を進めることも重要課題である。 平成25年度は、特に地平面の存在にともなう粒子生成と揺らぎについて研究を推進する。23年度に導出したブラックホール地平面での揺らぎと散逸を表す確率微分方程式は、コヒーレントな量子力学的な基礎方程式を平均化して得られた。しかし、量子コヒーレンスを保ったまま扱い、そのうちのある状態へ射影すると、その状態でのエネルギーの揺らぎが地平面付近で発散することが示唆される。25年度は、量子情報理論で知られている弱値の考え方を、地平面付近の揺らぎに適用し、その振る舞いを調べ、ブラックホールの情報喪失問題との関係を議論したい。 また、加速運動する観測者や加速ミラーからの輻射についても、量子コヒーレンスを保ったままの状態で、地平面付近の揺らぎを調べ、発散の有無を解析する。 さらに今後、地平面をもつもう一つの大事な時空であるドジッター時空の量子論も調べる予定である。ドジッター時空は、インフレーションに代表される膨張宇宙を記述する時空であるが、ハッブル地平面での量子揺らぎが、現在の宇宙のマイクロ波輻射の起源となることが知られている。この計算を、輻射優勢な宇宙まで接続して、現在の暗黒エネルギーとのつながりを議論したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
主に国内、国外への研究旅費に使用する予定である。 国内では、相対論や素粒子論の研究者との研究打合せ、また学会や研究会での研究発表などの旅費に使用する。また、関連する研究をしている研究者を招聘し、研究遂行のための情報収集を行う。 国外では、海外の国際会議への出席、海外研究者との研究打合せを予定している。また、海外からの研究者の招聘も考えている。 24年度に研究打合せの予定をしていた研究者が来られなくなったため、スカイプを使いインターネット上での議論を行い、その分を次年度に繰り越した。
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