研究課題/領域番号 |
23540330
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
鈴木 博 独立行政法人理化学研究所, 初田量子ハドロン物理学研究室, 専任研究員 (90250977)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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キーワード | 超対称性 / 非摂動論 / 数値シミュレーション |
研究概要 |
当該年度の研究業績は以下のものである。まず、我々が以前定式化した2次元のN=(2,2) Wess-Zumino模型の非摂動論的定義に基づき、この模型の数値シミュレーションを実行した。この理論で質量項を持たないものは低エネルギーの極限で非自明な共型場理論になると考えられているが、これは非摂動論的なダイナミクスの結果であり、これを解析的に直接示すことは困難である。ここではまず、超ポテンシャルが3次の最も単純な模型を取り上げ、低エネルギー極限でプライマリー演算子に対応すると考えられるWess-Zumino模型のスカラー場のスケーリング次元を有限体積スケーリングから評価した。その結果、予想されている共型次元と無矛盾な結果を得た。次に我々の定式化で厳密に保存する超対称性に付随したネーターカレントの2点関数を超共型カレントの2点関数と同一視することで、低エネルギー極限での超共型代数の中心電荷を測定した。結果として予想される中心電荷と極めてよく一致する値を得た。もう一つの成果としては、4次元のN=1超対称Yang-Mills理論の格子定式化の基礎付けを与えたことが挙げられる。この理論における超対称性を壊すrelevantな演算子はグルイーノの質量項だけであり、この演算子はカイラル対称性も壊すことから、仮に格子上でカイラル対称性を実現することが出来ればそれは(連続極限で)超対称性をも意味するという議論が古くからなされ、実際にこのシナリオに基づいた数値シミュレーションもなされている。しかしながら、この議論はかなり素朴なものであり、超対称性のWard-高橋恒等式とカイラル対称性のWard-高橋恒等式が同時に回復することの厳密な証明はこれまで存在しなかった。ここでは、一般化されたBRS変換というゲージ変換、超対称性変換、カイラル変換、並進などを含んだ変換の代数構造を利用しこの厳密証明を与えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当研究課題の目的は、超対称性を持つ場の理論の非摂動論的定式化およびその応用である。これまでに得られた研究業績である、2次元N=(2,2) Wess-Zumino模型の数値シミュレーションによる低エネルギーダイナミクスの解明、および4次元N=1超対称Yang-Mills理論の格子定式化の理論的基礎付け、はいずれもこの研究目的に沿うものである。しかも、これらの研究では、研究開始当初に想定していた成果をかなり越えた成果が実際には得られており、うれしい誤算と言える。これらの成果はさらに様々な拡張、一般化の可能性を持っており、これ以降の研究の出発点とも成り得る。これらのことから研究計画はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究を進める方向としては次のものを現在想定している。まず、2次元のN=(2,2) Wess-Zumino模型の数値シミュレーションに関しては、定式化と方法論は完成しているので、今後はより一般の超ポテンシャルを持つ系のシミュレーションに取り組みたい。特に、超ポテンシャルが4次で4個の超多重項を含む場合、超ポテンシャルが5次で5個の超多重項を含む場合は、K3曲面、Calabi-Yau多様体へのコンパクト化に対応した超共型場の理論が実現されると考えられており、この対応を(任意の複素モジュライに対して)数値計算で観測するのは大変興味深いと考える。また、4次元N次元超対称Yang-Mills理論における一般化されたBRS変換のさらなる応用を考える。具体的には、超対称性や並進対称性が明白でない格子定式化におけるエネルギー運動量テンソルや超対称性カレントの構成法への応用を念頭に置いている。また、4次元のN=4超対称Yang-Mills理論は、AdS/CFT対応を通して超弦理論や量子重力の非摂動論的定式化を与える可能性を持っており、その非摂動論的定式化は、極めて重要である。この問題に関して、最近独自の定式化のアイデアを得ており、この考えの成否を検討したい。もしこのアイデアがうまく働けば、例えば各種複合演算子の異常次元を任意の結合定数に対して数値的に測定することが可能となるはずである。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、当該研究に関する研究情報収集および研究成果発表への使用途が中心となる。
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