研究課題/領域番号 |
23540330
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
鈴木 博 独立行政法人理化学研究所, 初田量子ハドロン物理学研究室, 専任研究員 (90250977)
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キーワード | 超対称性理論 / 非摂動論 / 数値シミュレーション / エネルギー運動量テンソル |
研究概要 |
本課題の目的に関して今年度得られた研究成果は以下の通りである。まず、4次元N=1超対称Yang-Mills理論の格子定式化に関するものが挙げられる。この定式化に対しては、昨年度、一般化されたBRS対称性に基づいて、超対称性に付随したWard-高橋関係式の連続極限での回復の証明を摂動論の全次数で与えた。今年度は、この研究で得られた格子理論での超対称性Ward-高橋関係式と超対称性カレントの構造、さらに4次元の超対称性理論に存在するFerrara-Zumino超多重項の構造に着目して、連続極限で保存則を満たす格子上のエネルギー運動量テンソルの構成法を与えた。さらにこの格子エネルギー運動量テンソルの定義する零点エネルギーが連続極限で超対称性代数と無矛盾になること、また、正しいトレースアノマリーを再現すること(この部分の論文は準備中)などを示した。格子定式化は無限小並進対称性を壊すため、連続極限を考えても保存則を満たすエネルギー運動量テンソルを構成することは難しい。このことが、エネルギー運動量テンソルに関係した物理量を第一原理から格子定式化で測定することを困難にしている。ここで我々が構成した格子エネルギー運動量テンソルは、超対称性理論の今後の格子数値シミュレーションにおいて真空のエネルギーや粘性係数などの興味深い物理量を測定するための有用な方法を与えると期待できる。また、今年度はさらに、上の成果に触発されて、Yang-Mills gradient flowという手法を用いた格子上のエネルギー運動量テンソルの構成法を考察・提案した。これは、gradient flowを呼ばれる格子理論と連続理論の両者で計算可能な量を媒介にしてエネルギー運動量テンソルを定義するもので、全く新しいアイデアに基づくものである。このアイデアは超対称性を持たない理論にも応用でき、今後のさらなる解析が待たれる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題の目的は、超対称性を持つ理論の摂動論を越えた定式化を開発し、それに基づいて超対称性理論の非摂動論的ダイナミクスを第一原理から解析することである。これまでに得られた研究成果、2次元N=(2,2) Wess-Zumino模型の数値シミュレーションによる低エネルギーダイナミクスの解明、4次元N=1超対称Yang-Mills理論の格子定式化の理論的基礎付け、この格子定式化における保存するエネルギー運動量テンソルの構成、Yang-Mills gradient flowに基づく格子理論でのエネルギー運動量テンソルの構成、はいずれもこの研究目的に沿うもので、非自明な成果を得ていると考えている。このことから研究計画はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度の研究の方策としては以下のものを現在想定している。まず、我々が最近提案したYang-Mills gradient flowに基づいた格子理論でのエネルギー運動量テンソルの構成法をさらに詳しく解析する。この手法は、もし実際の数値計算でも実用的なものと分かれば、格子定式化でのエネルギー運動量テンソルの定義に対して、これまでになかった全く新しい理想的な方法を提供する。この点は極めて重要なので、単純な系での数値シミュレーションの詳細な解析から、その実用性を検証したい。さらに、現時点では簡単化のためYang-Mills理論に対してだけ与えられている構成法をより一般の理論に拡張する。また、このアイデア自身はエネルギー運動量テンソルに限らず、様々なネータ-カレント、例えばカイラルカレントや超対称性カレント、の格子上での構成にも応用できるので、その可能性も追求する。別のプロジェクトとしては、以前行った2次元N=(2,2) Wess-Zumino模型に対する数値シミュレーションをさらに大規模化、精密化し、より高い精度で臨界指数、中心電荷、c関数などを求め、我々の定式化の正当化を得、さらには、Calabi-Yauコンパクト化に関連した物理的情報を引き出すことを目指す。また、近年、4次元N=4超対称Yang-Mills理論の格子定式化とそれに基づいた数値シミュレーションの研究が(別グループにより)なされているのだが、この定式化の理論的基礎に疑義を感じており、その点を明確にする研究にも取り組む。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度には当該研究に対する研究情報収集に加え、これまでに得られた研究成果を発表するために研究費(旅費)に少し多めに確保したいと考え、次年度使用額を残した。次年度も今年度同様に研究情報収集および研究成果発表への仕様とが中心となる。
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