研究課題/領域番号 |
23540333
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
笠木 治郎太 東北大学, 電子光理学研究センター, 名誉教授 (10016181)
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キーワード | 核反応 / 液体金属標的 / d(d,p)t反応 / 超音波キャビテーション / 遮蔽エネルギー / 協力衝突反応 |
研究概要 |
(a)液体金属中での核反応:液体Li超音波キャビテーションに関する前年度の結果を踏まえ、今年度は、重陽子ビーム照射により、Li以外の液体金属による超音波キャビテーションの可能性が調べられた。具体的には、比較的融点の低いGa,とInの液体標的がテストされた。しかしながら、両者ともに超音波照射のON/OFFのd+d反応への影響は全く観測されず、液体Liの場合とはかなり様相が異なっていることが判明した。液体Gaは液体に超音波を伝播するAlホーンと合金をつくり材質を劣化することが判ったので、液体標的としての開発は当面断念することにした。一方、液体Inに関しては、重陽子ビーム照射時に放出される荷電粒子を観測していたところ、液体In中のd+d反応は特異な振る舞いを示していることが判り、そのメカニズムを解明することとした。 (b)液体In中での協力衝突d+d反応機構の発見:液体In中での特異なd+d反応の大きな特徴は、①d(d,p)t反応からの陽子スペクトルが非対称で幅広い、②収量の励起曲線が通常のd+d反応の予想とは全く異なり、更に、③原子ビームD+照射時には観測されず、分子ビームD3+照射でのみ観測される、の3点である。詳細な解析の結果、この反応は分子ビームに特有な2段階反応で、分子中の一つのdがInと弾性散乱を起こし方向を変え、同じ分子中の他のdと衝突しd(d,p)t反応を生じたものであると結論された。新たに発見したこの反応過程を分子ビームによる協力衝突反応(Cooperative Colliding Reaction)と名づけた。この場合、d+d反応は液体金属の伝導電子中で生じるため、電子による遮蔽効果により増強されると考えられる。現在、詳細なデータの取得により、この反応から遮蔽ポテンシャルを精度良く決定する実験が続行されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Li以外の金属での液体金属標的での核融合反応促進については、GaとInについての予定通り進められた。両者ともに、超音波キャビテーションの効果が全く見られなかったが、液体In中でのd+d 反応の異常性を見出すという新たな展開があり、全体としては概ね順調に進展したといえる。
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今後の研究の推進方策 |
液体In中でのd+d反応に新たなメカニズムを見出したため、従来の研究計画を多少変更し、次年度が最終年度であることも考慮して、今後、以下の2点を重点に研究を進める。 (a)新たに発見した協力衝突反応を用いて、液体金属中のd(d,p)t反応の遮蔽エネルギーを精度良く決定する。この方法は、金属中への重陽子ビーム照射時の標的重陽子密度のあいまいさが無くなるため、従来の方法に較べて、導出される遮蔽エネルギーの信頼性は飛躍的に大きくなる。また、d+d反応を取り巻く環境は固体金属中とは異なり、結晶格子は存在せず伝導電子の効果のみである。比較的融点の低い In, Bi等を対象に、電子密度と遮蔽エネルギーの相関を求める。結果を理論計算と比較する。 (b)重水素を含む通常液体(重水、重水素化アセトン等)を対象に、キャビテーション核融合の可能性の探索する。通常液体に超音波を作用させキャビテーション中でのd(d,n)3He反応生起の有無を、キャビテーションON/OFF時の中性子スペクトルを比較することにより探求する。キャビテーションの発生には、これまで開発してきた超音波キャビテーションを使用するが、パワーが大きな流動キャビテーションも試してみる。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度の未使用額は、予定していた液体Ga標的は、Alと合金を作るため、開発を中断したために発生したものである。しかしながら、液体In標的では、新たな反応メカニズムを見出し、このメカニズムを他の液体金属にも適用していくこととなった。次年度は、平成25年度請求額とあわせて、上述の研究の遂行に使用する予定である。
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