研究課題/領域番号 |
23540335
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
涌井 崇志 東北大学, サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター, 助教 (70359644)
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研究分担者 |
篠塚 勉 東北大学, サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター, 准教授 (10134066)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | スピン偏極 / 不安定核 / 芳香族分子 / 固体標的 |
研究概要 |
本研究は、核磁気モーメントを質量数40以上の中性子過剰核を含めた幅広い領域にわたって系統的に決定するために、現在開発中の新しい手法による不安定核のスピン偏極生成装置の高度化と実用化を目的としている。高度化の対象となる核スピン偏極生成装置は、(a)芳香族分子中の電子スピンを整列させる励起光源、(b)電子スピン整列を陽子偏極へと移行するための電子スピン共鳴装置、(c)陽子偏極度を測定するための核磁気共鳴装置、(d)陽子偏極を不安定核偏極へと移行するための交差偏極装置、そして(e)標的チェンバーと電磁石、で構成されている。初年度は震災の影響で実験室の使用が制限されたため、その影響を受けずに行える(d)の高度化および(e)の導入と改良準備を行った。原子核間の交差偏極では、原子核の磁気モーメントが電子のそれと比べて小さいために、電子から陽子への場合と比較して交差偏極時間が長くなる。これに対応するために、デューティー比が高く、パルス幅の長い高周波増幅器を新たに導入した。また、これまで用いていた二重同調回路は電力損失が75%と高く、磁気モーメントの小さい核では印加可能な高周波出力が不足する恐れがあった。このため、電力伝送効率の高い二重同調回路を設計し、製作を行っている。核スピンの量子化軸を決める外部静磁場の生成には現在、磁場強度可変型永久磁石を用いているが、磁極間隔が狭く、β線検出系の導入が困難である。そこで、東北大学サイクロトロン・RIセンターに既存の電磁石を使用することとし、移設・導入作業を行った。今年度は、実験室の震災復旧工事が終了次第、偏極移行実験に向けた準備を進めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
震災により実験室の放射線遮蔽扉の損傷やビームラインのアライメントのずれなどが生じ、2012年6月頃までの予定で復旧工事が進められている。この間、実験装置の一時移動・撤去や冷却水の停止などがあり、偏極実験を中断する必要があった。このため、当初計画のうち、実験室外で実施可能な項目のみの研究を進めた。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度前半は、前年度に実験室の震災復旧工事の影響で実施できなかった真空槽の設置やβ線検出系の組み上げ作業をまず実施する。実験室の復旧工事は平成24年6月末を予定している。さらにこれまでに開発した核偏極生成装置に、励起光照射時でも結晶温度を真空中で室温付近に維持するための冷却機構を導入する。また、これを可能とするよう真空槽を改造する。そして、新たに導入した電磁石を用いて、陽子の偏極生成を行う。平成24年度後半には、偏極度の向上を図り新たな励起光源を導入する。これまで用いてきたYAGレーザーはデューティー比が小さいうえに固定されており、パルス幅や繰り返し周波数を陽子偏極に最適な条件に設定できなかった。そこで連続発振のレーザー装置を導入し、機械的チョッパーを組み合わせることで、核偏極生成に最適なパルス構造の励起光を形成する。これを含め、偏極効率を最大限に引き上げるために、陽子偏極度を指標として各偏極パラメータの最適化を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額は当初計画していた真空槽の改造、冷却機構の導入、そしてβ線検出系の増強を震災復旧工事の影響で平成24年度に延期することにより生じたものであり、延期した項目を平成24年度に実施するために必要な経費として、平成24年度請求額と合わせて使用する予定である。
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