研究課題/領域番号 |
23540335
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
涌井 崇志 東北大学, サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター, 助教 (70359644)
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研究分担者 |
篠塚 勉 東北大学, サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター, 准教授 (10134066)
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キーワード | スピン偏極 / 不安定核 / 芳香族分子 / 固体標的 |
研究概要 |
本研究は、核磁気モーメントを質量数40以上の中性子過剰核を含めた幅広い領域にわたって系統的に決定するために、現在開発中の新しい手法による不安定核のスピン偏極生成装置の高度化と実用化を目的としている。高度化の対象となる核スピン偏極生成装置は、(a)芳香族分子中の電子スピンを整列させる励起光源、(b)電子スピン整列を陽子偏極へと移行するための電子スピン共鳴装置、(c)陽子偏極を測定するための核磁気共鳴装置、(d)陽子偏極を不安定核偏極へと移行するための交差偏極装置、そして(e)標的チャンバーと磁石で構成されている。 昨年度は、前年度に引き続き、核スピン偏極生成装置の高度化を実施した。具体的には(a)の励起光源と(e)の磁石を主な対象とした。まず、(a)の励起光源として、Arイオンレーザーを新たに導入した。これまで使用していた励起光源はNd:YAGレーザーであり、ピーク出力は強いものの、パルス幅が短く、またデューティー比が小さいため、偏極生成に最適とは言えなかった。今回導入したArイオンレーザーは、連続波出力であるが、光チョッパーを用いることでデューティー比やパルス幅を任意に設定でき、偏極生成に最適化することが可能となった。また、新しい励起光源の導入に伴い、結晶に照射される平均出力が増大することから、結晶の温度制御機構を新たに導入した。 さらに(e)の磁石として、これまで磁場強度可変型永久磁石を用いて偏極生成試験を行っていたが、磁極間隔が20 mmと狭く、β線検出系の導入が不可能であった。不安定核への偏極移行を実施するために、新たにC型電磁石を導入した。導入にあたり、十分な磁場強度や磁場均一度を得るために、磁場計算を行い、その結果をもとに磁極間隔を90 mmとした。 これらの高度化を行った後に偏極生成試験を実施した。その結果、以前と比較して偏極度を4倍以上に増大させることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
東日本大震災により、実験室の放射線遮蔽扉の損傷や、ビームラインのアライメントのずれなどが生じ、2012年10月まで復旧工事が行われた。この間、実験装置の一時移動・撤去や冷却水の停止などがあり、偏極生成実験を中断する必要があった。これに伴い、初年度の研究計画に大幅な遅れが生じた。研究計画を変更し、実施可能な項目を優先的に実施するなどの工夫の結果、昨年度末までに遅れを取り戻しつつあるものの、現状でもやや遅れた状態となっている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度末までに、偏極生成装置の高度化が一段落した。平成25年度前半には、偏極生成パラメータの最適化を行う。これは主にレーザー光の繰り返し率やパルス幅、出力などを中心に行い、到達偏極度をさらに増大させる。同時に安定核を用いた偏極移行試験を実施し、偏極移行パラメータの最適値を探る。そして、β線検出系の整備を行い、不安定核偏極生成の準備を完了する。 平成25年度後半には、低速不安定核を生成するRFイオンガイド型の同位体質量分離装置の改良を引き続き実施し、ビームタイムを申請して実際に不安定核を引き出す。その後、磁気モーメントが既知の不安定核を用いて、実験原理の実証・実用化を図る。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は主として、偏極生成装置とRFイオンガイド型同位体分離装置を接続する真空系の整備と、β線検出系の整備を重点に使用する予定である。
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