研究課題/領域番号 |
23540336
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
篠塚 勉 東北大学, サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター, 准教授 (10134066)
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研究分担者 |
涌井 崇志 東北大学, サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター, 助教 (70359644)
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キーワード | 不安定核 / 原子核構造 / 核モーメント / 質量分離 / イオンガイド法 / SPIG法 |
研究概要 |
短寿命の不安定核を迅速、高効率で取り出して質量分離するための装置としてRFイオンガイド型同位体質量分離装置を開発している。本研究では開発の最終段階として、これまでの研究により有効性を証明できたRFカーペットをガス停止容器全面に配置する。 これは、不安定核イオンが壁に付着して失われることを防ぐものである。それと同時に、イオン引出し部直後の差動排気部に、リニアトラップの原理を用いた六極のロッドによるRF線形トラップ(SPIG)を導入する。また、オフラインでこれらの装置のパラメータ探索や性能試験を実施する。以上により現有のイオンガイドの収量を10倍に増加することを目指している。 昨年度は、初年度に製作したSPIGの導入を進めた。現有のイオンガイドは30 kPaという高圧力領域から10 Paの真空領域へと移行する差動排気中間領域に、高電圧(1 kV)での引き出し系を用いていることから、イオン引出時に、ガス衝突による速度分散を起こし、結果として引出し効率、質量分解能、輸送効率の劣化を招いている。特に質量分解能は60程度であり、これにより輸送効率が30%程度となっている。そこで、高真空を保ちながら低電圧での高効率引出しを実現するために、ガスセルの出口とスキマー電極の間にSPIGを設置した。 SPIGを設置した状態で、ガスセル中へ導入するヘリウムガスにXeガスを少量混合し、質量数130前後のXeイオンを引出して質量分解能を測定した。その結果、質量分解能は300以上となり、SPIG導入前と比較して大幅に改善することに成功した。これにより、質量数が130前後の中重核にたいしても単一アイソバービームとして、ビームライン末端まで輸送することが可能となった。 また、震災復旧後のビームコースの試験を兼ねて、オンライン実験も実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
東日本大震災により、RFイオンガイド型同位体質量分離装置(RFIGISOL)が設置されている実験室の放射線遮蔽扉が損傷した。また、ビームラインも地震の揺れによりアライメントにずれが生じたため、2012年10月まで復旧工事が行われた。この間、実験装置やビームラインの一時的な移動・撤去や冷却水の停止などがあった。これに伴い、初年度の研究計画に遅れが生じた。そのため、研究計画を変更し、RFIGISOLを使用せずに実施可能な項目を前倒しするなどの工夫を行ったが、震災復旧工事が当初予定の2012年5月から10月へとずれ込んだ影響もあり、全体的に遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までに、SPIGの導入と、それによる質量分解能の改善に成功している。しかし、Xeガスと比較して、収量の少ない不安定核については、ガスセルからの引出しと、ビームコース末端への輸送を確認できていない。これは、ガスセル中で不安定核イオンが熱化する際に、ガスセル内の不純物との衝突により、中性化や複合分子イオンを形成しているためと考えている。 平成25年度には、複合分子イオン形成の原因となっている不純物の除去や、複合分子イオンの積極的な分解などを試験する。不純物の除去としては、真空排気系の改善の他、ガスセル内に設置されたRFカーペットに用いている材質の再検討と改造を行う。それでもなお、複合分子イオンが有意に抑えられない場合も考えられる。これまでの研究から、ガスセル出口とSPIGとの間の電位により、複合分子イオンの分解が可能であることが知られている。そこで、複合分子イオンを分解しつつ、放電せず安定して印加可能な電位を探索する。 これらの対策の効果をオフラインで確認した後に、オンライン実験を実施し、不安定核の収量を確認する。そしてさらに、核モーメントの測定へと進めていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は、主として、上記の不純物対策に研究費を使用する予定である。
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