研究課題/領域番号 |
23540338
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
吉田 拓生 福井大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30220651)
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キーワード | 素粒子実験 / 半導体受光素子 / シンチレーション光 / チェレンコフ光 |
研究概要 |
平成23年度に完成させた測定装置を用いてアバランシェフォトダイオード(APD)やマルチピクセルフォトンカウンター(MPPC)などの半導体受光素子に微弱な光信号を照射し、その性能評価を行う実験を本格的に開始した。 まず最初に浜松ホトニクス製の短波長型シリコンAPD S8664-55の過剰雑音係数の測定を詳しく行い、その波長特性を調べた。微弱光信号に対する検出効率はS/N比によって決まるが、今回はその内のN(ノイズ)の特性を詳しく調べたことになる。その結果、このAPDでは、波長500 nm以下の短波長光に対して過剰雑音が小さくなることが分かった。実際の素粒子実験でもこのような短波長の光信号を検出することになるが、一般にAPDは短波長の光に対しては量子効率が低く、従ってS(信号)が小さいため、不利であると思われていた。しかし、今回の測定結果から、短波長領域でSが小さくなっても、同時にNも小さくなるため、結果的に十分大きいS/N比が維持され、十分大きい検出効率が得られる可能性が出てきた。このAPDで微弱光信号に対する検出効率を実際に測定することが、次年度以降の課題となる。 次に、浜松ホトニクス製のMPPC S10362-11-100Cを用いて、シンチレーティングファイバーにβ線を照射したときの平均光子数13個程度の光パルスに対する検出効率を測定したところ、MPPCを室温中に置いたときには検出効率は87%程度であったが、MPPCを-25℃以下に冷却することによって、ほぼ100%近い検出効率が得られた。これは、MPPCを冷却することによって、MPPC中の熱電子によるノイズが減少し、信号とノイズを弁別するためのしきい値を下げることができたためである。もっと低温まで冷却することで、もっと微弱な光信号に対しても十分な検出効率が得られるようになるか否かを調べることが、次年度以降の課題となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度に準備した装置(半導体受光素子を冷却する装置、微弱光の光源、信号読み出し用電子回路など)を用いて、APDやMPPCなどの半導体受光素子に微弱な光信号を照射し、その性能評価を系統的に行う実験を本格的に開始することができた。特に、APDの二次電子増倍率(Gain)や過剰雑音係数などを測定し、APDの基本特性と入射光の波長との関係を詳細に把握した。また、MPPCの微弱光に対する検出効率を測定し、MPPCの冷却温度などとの関係を調べ、受光素子を冷却することの有効性を確認した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に引き続き、APDやMPPCなどの半導体受光素子に微弱な光信号を照射し、その性能評価を系統的に行う。今年度すでに用いた受光素子も含めて、以下の①~③の各種半導体受光素子を性能評価の対象とする。 ① 浜松ホトニクス 短波長タイプ・シリコンAPD S8664-55 および S8664-1010 ② 浜松ホトニクス MPPC S10362-11-100C、S10362-33-100C、および特注品 ③ 浜松ホトニクス 短波長タイプ・シリコンAPDアレイ SPL2367 および SPL2368(特注品) 特に、今年度よりも更に微弱な光子10個以下の光信号を照射し、本研究の最終目的である微弱光検出能力の限界を探る実験を行う。受光素子の冷却についても、室温から液体窒素温度(1気圧の下で-196℃)までの間で最も検出効率を高める温度を探る。
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次年度の研究費の使用計画 |
半導体受光素子の二次電子増倍率(Gain)は、印加するバイアス電圧に大きく依存する。特に、MPPCではバイアス電圧を1 mVの精度で精密に制御する必要があり、そのために高分解能・高精度のデジタル・マルチメーター「ケースレーインスツルメンツ2000/J、\140,000」を購入する。また、半導体受光素子の波長特性を調べる際には、光源の発光スペクトルをできるだけ正確に把握する必要があり、そのために高分解能の分光器「浜松ホトニクス C10082CAH、\430,000」を購入する。
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