研究課題/領域番号 |
23540338
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
吉田 拓生 福井大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30220651)
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キーワード | 素粒子実験 / 半導体受光素子 / シンチレーション光 / チェレンコフ光 |
研究概要 |
光子10個以下の微弱な光信号に対するアバランシェフォトダイオード(APD)やマルチピクセルフォトンカウンター(MPPC)の系統的な性能評価を行うに先立って、その光源となる発光ダイオード(LED)の発光特性を詳しく調べた。特に、LEDに幅20ns程度の短いパルス電圧を加えてパルス発光させ、そのパルス当たりの光子数を、加える電圧の値や減光用フィルターの透過率を調整することによって平均0~20個の間の任意の値に設定できる光源を開発し、その光子数分布がポアソン分布に従うことを確認した。用いたLEDは、素粒子実験で用いるシンチレータ―や波長変換ファイバー等の発光波長に合わせて、ピーク波長が460nm、503nm、520nmのものを選択した。 また、本研究の初年度に透明アクリル樹脂に宇宙線μ粒子を照射したときのチェレンコフ光を利用する光源を作製したが、今年度はこの光源に改良を加え、アクリル樹脂の厚さを種々調整することによって平均光子数10個以下の光信号を作ることができるようにした。また、この光信号の光子数の分布もほぼポアソン分布に従うことを確認した。 これらの光源を用いたAPDやMPPCの系統的な性能評価実験は来年度から行うことになるが、今年度は、そのための予備実験として、室温中に置いた受光面5mm×5mmの浜松ホトニクス社製APD S8664-55に上記LEDの光信号を照射したところ、100%近い検出効率を得るには、パルス当たり光子50個程度以上必要であった。APDを冷却することによってどこまで性能を向上させることができるかが今後の課題となる。また、同社製の直径1mmφの特注APD SPL2368では、-50℃まで冷却すれば平均光子数10個程度の光信号に対してほぼ100%の検出効率が得られているので、次年度にはさらに光子数の少ない光信号で性能評価を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アバランシェフォトダイオード(APD)やマルチピクセルフォトンカウンター(MPPC)に微弱な光信号を照射したときの性能評価実験は予備実験の範囲に留まったが、その性能評価に用いる光源の特性をほぼ完璧に把握することができたこと、特に、その光量の分布が数理統計学的に予測されるとおりであることを実証できたことは大きな収穫であった。このことは、LEDの発光には蛍光灯やブラウン管ディスプレイに見られるような光の「明滅(ちらつき)」などが無いことを意味する。 以上より、これにて半導体受光素子の微弱光検出能力を系統的に調べるための装置は全て揃ったことになり、来年度の本格実験に繋げることができる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究の中で特性を十分よく把握することができた上述の光源を用いて、各種半導体受光素子の性能評価を系統的に行う。対象とする受光素子は以下の①~③である。この内、受光面が大きいためにシンチレーションカウンターとしての利用が期待される①のAPDの性能評価を最初に行う。また、シンチレーティングファイバーの読み出しのために特注で製作した③のAPDアレイの性能評価も次年度のうちに行いたい。 ① 浜松ホトニクス 短波長タイプ・シリコンAPD S8664-55 および S8664-1010 ② 浜松ホトニクス MPPC S10362-11-100C、S10362-33-100C、および特注品 ③ 浜松ホトニクス 短波長タイプ・シリコンAPDアレイ SPL2367 および SPL2368(特注品)
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