研究課題/領域番号 |
23540342
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
嶋 達志 大阪大学, 核物理研究センター, 助教 (10222035)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 元素合成過程 / p-過程 / モリブデン / 光核反応 / レーザー逆コンプトンガンマ線 |
研究概要 |
モリブデンの安定同位体の中でもっとも中性子数の少ない92Moは、宇宙元素合成の観点からはいわゆる「p-過程元素」に分類され、主要な元素合成過程のいずれによっても生成が困難であり、その起源は大きな謎である。本研究は、92Mo合成過程として有力視されている超新星爆発時の9~11MeVガンマ線による光核反応に着目し、Mo同位体の光核反応断面積、特にもっとも寄与が大きいと予想される92Mo(γ,p)91Nb反応断面積の精密測定を目標とする。平成23年度は、予備的実験として100Mo(γ,n)反応断面積の測定をおこなった。天然Mo試料に兵庫県立大学高度産業科学技術研究所・ニュースバルで提供される12~16MeVの高輝度レーザー逆コンプトンガンマ線を照射し、生成された99Mo核のベータ・ガンマ崩壊からのガンマ線を精密測定することにより、断面積測定に成功した。また天然Mo標的中の100Mo含有率に対して100ppbの検出感度を達成した。12~16MeV領域での100Mo(γ,n)99Mo断面積については過去の実験で平均約100mbと報告されており、標的核の量と断面積の積に対する総合的感度としては10nbとなる。この感度を92Mo(γ,p)91Nb測定に当てはめた場合、天然Mo中の92Mo同位体比(14.8%)と娘核91Moのガンマ崩壊分岐比(2%)を考慮すると、 断面積に対する測定限界 3.3μbが予想され、目標とする9~11MeV領域での理論的予想値~10μbを検証するのに十分である。上記のベータ・ガンマ測定法では、娘核91Nbのアイソマー状態(1/2-)への部分断面積のみ測定可能であり、基底状態も含む全断面積の測定は製作を予定しているコンプトン抑止NaI検出器および無機シンチレータ標的によって行なう。平成23年度はそれらの検出器の設計も行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ベータ・ガンマ崩壊測定法の試験測定については予想以上の感度が達成されたが、放出陽子検出のためのコンプトン抑止NaI検出器および無機シンチレータ標的については、業者への見積もりを依頼したところ、シンチレーション材料の極端な需要増という事態が発生し、平成24年度に入ってようやく業者側に受注可能な態勢が整った状況である。このため、24年度中に予定していた上記検出器系のテスト、および25年度の本測定に向けてのバックグラウンド対策が約5ヶ月遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は、放出陽子の直接検出による92Mo(γ,p)91Nb反応測定のための検出装置の完成を目指す。上半期中にコンプトン抑止NaI検出器および無機シンチレータ標的の製作を完了させ、基本的な動作の試験を行なう。次にそれらをニュースバル・ガンマ線源に設置し、実際にガンマ線を照射した状態で動作の確認、放出陽子に対する検出効率、バックグラウンドの性質等の調査を行なう。バックグラウンド対策を実施し、最終的にガンマ線エネルギー9~11MeV領域での92Mo(γ,p)91Nb断面積の本測定が可能な状況を実現する。平成25年度には、本測定を実施し、断面積の理論的予想値~10μbを誤差10%程度の高い精度で実測する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は、コンプトン抑止NaI検出器、無機シンチレータ標的を購入する。それらをニュースバル放射光施設に搬入し、試験測定を5~6回にわたって実施する。このための運搬費用、旅費を支出する。また、24年度上半期までの成果および進行状況を国際シンポジウムで発表するため、海外渡航旅費を支出する。
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