研究課題/領域番号 |
23540342
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
嶋 達志 大阪大学, 核物理研究センター, 助教 (10222035)
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キーワード | 元素合成過程 / p-過程 / モリブデン / 光核反応 / レーザー逆コンプトンガンマ線 |
研究概要 |
92Moはモリブデンの安定同位体の中でもっとも中性子数が少なく、宇宙元素合成において「p-過程元素」に分類されるが、実際に観測される92Moの量は、理論による予測値の数十分の1しかなく、宇宙核物理学における難問のひとつとなっている。本研究は、92Mo合成に対してもっとも影響が大きいと予想される92Moの光核反応、特に92Mo(γ,p)91Nb反応に着目し、Mo同位体を含む検出器自身を“能動標的”とする新しい測定手法を開発することによって、反応断面積の精密測定を実現することを目標とする。 実際の測定では、能動標的に入射したガンマ線がコンプトン散乱によってバックグラウンドを大量に発生するため、これを抑圧することが鍵となる。本研究では、能動標的の周囲をガンマ線検出器であるNaI(Tl)シンチレーション検出器によって取り囲み、能動標的でコンプトン散乱を起こした後の散乱ガンマ線に対する反同時計数によってバックグラウンドの低減を図る。平成24年度は実際にコンプトン抑止用のNaI(Tl)検出器を製作し、標準ガンマ線源を用いて性能試験をおこなった。これによって得られたNaI(Tl)検出器の基本性能に基づいてシミュレーション計算をおこなったところ、バックグラウンドが2桁以上削減される効果が予想され、92Mo(γ,p)91Nb断面積測定に十分な感度が得られることがわかった。これによって、兵庫県立大学高度産業科学技術研究所・ニュースバル放射光施設のレーザー逆コンプトンガンマ線ビームを用いた性能試験の準備が整った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、レーザー逆コンプトンガンマ線ビームを用いた性能試験は平成24年度中に行うことを目標としていたが、NaI(Tl)検出器の納入が遅れたため、平成25年度前半にずれこんだ。しかし標準ガンマ線源による試験結果が良好であったため、最終的な92Mo(γ,p)91Nb断面積測定は予定通り平成25年度中におこなえるものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
コンプトン抑止NaI検出器および無機シンチレータ標的をニュースバル・レーザー逆コンプトンガンマ線源に設置し、実際にガンマ線を照射した状態で動作の確認、放出陽子に対する検出効率、バックグラウンドの性質等の調査をおこなう。 バックグラウンド対策を実施し、最終的にガンマ線エネルギー9~11MeV領域での92Mo(γ,p)91Nb断面積の本測定を実施する。断面積の理論的予想値~10μbを誤差10%程度の精度で検証することを最終的な目標とする。
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次年度の研究費の使用計画 |
コンプトン抑止NaI検出器および無機シンチレータ標的をニュースバル放射光施設に搬入・設置し、試験測定および本測定を計5~6回にわたって実施する。 このための運搬費用、旅費を支出する。 また、平成25年度上半期までの成果および進行状況を国際会議(国内開催の予定)で発表するため、旅費、会議参加費を支出する。
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