研究課題/領域番号 |
23540344
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
小島 康明 名古屋大学, アイソトープ総合センター, 講師 (80314730)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 寿命測定 / 核分光 / 中性子過剰核 |
研究概要 |
ウランの核分裂反応で生成させた質量数150近傍の中性子過剰希土類核の核構造を実験的に調べるために,(1)データ収集系の整備およびデータ解析プログラムの開発を行い,その後,(2)オンライン同位体分離装置(ISOL)を用いた核分光実験を行った. (1)については,リストデータ収集装置を購入し,基礎特性をオフライン実験で調べた.高計数率においても十分なデータ処理性能を持つことを確認したとともに,得られた大量のデータを処理し,同時計数したイベントのみを取り出すためのソフトウェアを開発した.実証試験として,Co60のカスケードγ線を用いた,コンプトン散乱光子の非対称度測定を行い,理論的に予想される偏光度と矛盾の無い結果を得た. (2)については,京都大学原子炉付置ISOLを用いて,寿命測定実験を行った.詳細なデータ解析を現在進めているところであるが,一次結果は下記の通りである.質量数149の核分裂生成物をテープ式捕集装置に打ち込み,それを240秒周期で運転させた実験では,Pr149のβ崩壊が強く観測された.娘核のNd149の準位のうち,270keVの寿命が1.6ns程度であることが分かった.過去の実験値は2.1(5)nsであり,誤差の範囲内で一致はするが,精度を大幅に向上できる見込みである.また,220keV準位は寿命5.1nsと報告されていたが,本研究はそれよりもかなり短い値を示している.さらに,他のいくつかの準位寿命に関して,これまではその上限値のみが報告されていたが,本研究で得られたデータを重心法で解析することで,200~500psの寿命を確定できる見込みである.テープ装置を8.5秒サイクルで運転させた実験では,Pr149の励起準位の寿命を観測できた.この核についてはこれまで論文として発表された実験値はなく,得られるデータは貴重である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験装置(データ収集系)の整備については,完了した. 中性子過剰希土類核に対するオンライン実験も行い,核行列を決めるために必要な励起準位寿命を,いくつかの準位について初めて得られる見込みがついている.
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今後の研究の推進方策 |
ISOLを用いた核分光実験を継続して行うとともに,検出器の特性をより詳細に調べるために,市販の放射性同位元素線源を用いた効率および直線偏光測定(非対称度測定)のための基礎実験を行う. 特に,全吸収型多結晶ゲルマニウム検出器を用いた直線偏光測定を,複雑な崩壊図式を有する核種に適用可能かどうかの検討を,オフライン実験を通じて行いたい.この種の測定器を崩壊核分光における直線偏光測定に利用した例はほとんど報告がないが,検出効率が極めて高いため,もし実現できれば,生成量の少ない不安定核に対する有力な測定手段になりうる.
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次年度の研究費の使用計画 |
2011年度は,京都大学原子炉ISOLを用いた核分光実験を,2~3回実施することを予定していたが,京大側の装置不調のため,ISOLでの実質的な実験は1度しか行うことができなかった.その結果として,旅費ならびに実験に必要な消耗品等の購入が当初予定より少なくなり,残額が生じた. 来年度は検出器校正用の放射性同位元素線源等を購入する.また,京大原子炉ISOLでの実験を行うための旅費ならびに2013年3月にアメリカで行われる予定の国際会議での発表旅費に使用する予定である.
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