研究課題/領域番号 |
23540347
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
渋谷 寛 東邦大学, 理学部, 教授 (40170922)
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研究分担者 |
三角 尚治 日本大学, 生産工学部, 准教授 (80408947)
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キーワード | 素粒子実験 / エマルション / 磁場 / ニュートリノ / ECC |
研究概要 |
1.長基線ニュートリノ振動実験OPERAの解析においてタウ崩壊候補とバックグラウンド(BG)との区別が必要不可欠であり、我々は主なBGの1つ、ハドロン反応に注目している。昨年度のKEK 4GeV/cπ中間子反応に引き続き、今年度はCERN 2GeV/c, 4GeV/c, 10GeV/cπ中間子反応を照射したECC ブリックの解析を行い、より系統的な研究を行った。その結果、タウ崩壊候補となりうる運動学的領域に入るバックグラウンド期待値の不定性を従来の50%から30%に低減することができた。また、核破砕片付随確率は運動量依存性を含め10%の精度で測定することに成功した。 2.この研究の中で大角度飛跡まで観測可能な独自の広視野自動飛跡読み取り装置を開発した。柔軟な対応が可能なGPUを用いた高速システムで、飛跡ランキング法を用いることで解析対象の飛跡とコンプトン電子飛跡を効率的に分離することができる。次世代の磁場印加型ニュートリノ実験にも対応可能なシステムで、すでに、UTSの数倍の読み取り速度を達成できた。昨年度の核破砕片(高電離損失粒子)の観測に加えて最小電離粒子に対してもtanθ=3.5の領域まで高効率で検出できることを確認し、日本物理学会で発表した。 3.スペクトロメーター用エマルション検出器・本体構造の研究では、フィルムとスペーサーをたわみ、歪みやズレなどがない状態で構造体の中にどのように配置させるか、検討した。実際にバネを用いた構造体によるエマルション検出器を製作してCERN研究所のハドロンビームを照射し、検証を行った。その結果、ある程度の圧力をかければ、通常の取り扱いの範囲ではズレなく保てることがわかった。一方で、落下のような衝撃には弱いことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
OPERA実験に貢献する中で、タウ崩壊のBG、ハドロン反応の研究を推進し、その成果を国際会議や国内の学会で発表した。さらに独自の広視野高速自動飛跡読み取り装置の開発に成功し、その成果を論文として発表した。次世代の磁場印加型エマルション検出器を用いたニュートリノ振動実験にはこのような柔軟なシステムが必要不可欠であり、その実現に向けて一歩近づいたといえる。大角度飛跡の読み取りが可能になるとともに、解析の邪魔になるコンプトン電子の飛跡を効率的に分離できるので旧システムでは必要とされたマニュアル・チェックを大幅に低減できる。 並行してエマルション検出器本体の設計とテストを進めている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、OPERA実験の遂行と解析に貢献する。 昨年度はタウニュートリノ検出の要であるタウ崩壊のBG、ハドロン反応の研究が喫緊の課題となり、そのECCの解析を優先させることとなった。今年度はその研究をさらに発展させるとともに、自動飛跡読み取り装置の開発・改良や解析法を研究する。 磁場印加型エマルション検出器本体の設計を進める。電子が照射された過去の照射実験のフィルムを用いて、磁場中の荷電粒子の接続や、電子・陽電子の識別が可能であるかを研究する。その上で電子・陽電子の識別に焦点をあてたビーム照射実験を行う。 これらの研究から得られた情報を総合して、エマルションスペクトロメーターの構造設計を完成させる。
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次年度の研究費の使用計画 |
OPERA実験のビーム照射、ブリックハンドリングなどの処理のため、イタリア・グランサッソ研究所への出張旅費が必要になる。また、共同研究者会議において成果発表と情報収集のため、会議の会場となる研究所や大学への出張が必要である。 自動飛跡読み取り装置の開発・改良、運転のための消耗品として、対物レンズ、電子部品、オイル、エタノールなどが必要となる。 磁場印加型エマルション検出器本体の設計に基づき、構造体、金属板、スペーサー、原子核乾板、塗布・現像・膨潤処理用薬品などの消耗品が必要となる。 磁場印加型エマルション検出器のビーム照射実験をSPring 8(J-PARC、CERN研究所、米国フェルミ研究所など)で行うための出張旅費、運搬費などが必要となる。
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