研究課題
医療と新たな分野への応用を目指して,陽子線治療用加速器を用いた新しい陽子線ラジオグラフィ手法の開発を行う.シミュレーションを有効活用して,実現性,性能・最適化についての検討と評価を目的とする. 本年度は,提案した画像化手法の確認とシミュレーション計算基盤の開発整備を行った.計算基盤としては,中規模な分散環境を構築して性能評価を行い,撮像手法の開発に利用した.また,画像化手法の開発では,(1)従来のエネルギー損失による画像化と,(2)多重散乱量を画像化する方法の2つを検討した.加えて新たに,これらの画像を複数の入射陽子線エネルギーで取得する撮像手法として,レンジモジュレータを導入した多重化手法を提案し,その評価を行った. 本研究では,(1)と(2)の2つの撮像法の検討のために,1cm厚程度の水等価な薄型2次元検出器があり,位置と信号量が理想的に測定できると仮定した.これにより従来の陽子線の全エネルギーを計測するカロリメータ測定器は不要であり,測定系の小型化と軽量化が実現できる.(1)の手法では,陽子線が薄型検出器に与える信号量を画像化するため,従来方法に比べて画像化可能な対象物の厚さや物質が大きく制限されてしまう.そこで,入射陽子線エネルギーを変えるレンジモジュレータと組み合わせ,各変調エネルギーで得られた複数枚の画像を重ね合わせることにより,撮像可能なダイナミックレンジを大きく改善できることを確かめた.更に,画像の重ね合わせの割合を調整することで,より撮像対象を鮮鋭化できることを確認した.(2)の手法では,各入射陽子線の入射位置に対する撮像対象通過後の位置の差分を画像化できることを確認した. (1)と(2)の両方において,300mm厚程度の水に直径30mmの円柱形の人体組成を構造に持つ撮像対象でシミュレーションを行い,いずれも画像化が可能であることを確認した.
2: おおむね順調に進展している
画像化のための新たな方法を提案し,その実現性および最適化を評価することが本研究の目的である. 本年度の研究実施により,30cm程度の厚さをもつ対象物について画像化が可能であることを確認できた.更に研究実施により,新たに陽子線エネルギー変調のためのレンジモジュレータを利用した画像の多重化を提案して,その有効性を確認した.当初,エネルギー差分と多重散乱の2つの多重画像のみを提案していたが,レンジモジュレータと組み合わせた多重画像へと発展する可能性を見い出し,更に画像の鮮明度を向上する手法として利用可能であることを確認できたことは大きな成果である. その他にも,国立がん研究センター東病院の陽子線治療施設の治療装置パラメタの調査収集を行い,シミュレーションへの導入を行った.現在,シミュレーション結果と陽子線治療装置による水ファントム内での線量分布測定結果との比較を行う段階に至っており,次年度に向けた実装の確認を実施中である. 本年度は,提案した画像化のための手法の実現性と最適化に必要な基礎データをシミュレーションによって確認することが目的であり,これらの成果から,おおむねその目的を達成することができたと判断する.
次年度は,画像化に必要な検出器性能を明らかにすることが目的である. これまでの研究により,画像化のために必要な測定量の概要が明らかになっている.次年度以降は,更に現実的な条件での研究として,(1)陽子線治療装置のパラメタを用いた画像化の確認,(2)医療画像装置や放射線計測で用いられている検出器パラメタでの画像化の検討を行う.特に,検出器の種類,配置,位置分解能,エネルギー分解能,時間分解能の点から,得られる画像への影響を評価する. (1)では,はじめにシミュレーション結果と測定値との一致を確認してシミュレーション結果の正確性を検証する必要がある.国立がん研究センター東病院の陽子線治療装置について検証を行い,理想的な検出器での画像化を試みる.また,その他の陽子線治療施設のパラメタも入手可能であれば検証を行い,施設の違いによる画像の違いを比較したい. (2)を(1)と並行して実施するため,陽子線パラメタとしては理想的な条件を用いて,画像化に必要な検出器性能の検討を行う.検出器の種類は多様であるが,これらの違いは主に測定部分の形状や配置,得られる信号の揺らぎに集約できる.そこで,ピクセル型とファイバー型の2種類の検出器についての性能パラメタを選択し,画像化に際しての利点と不利点,画像化に影響を与える性能パラメタを明らかにする. 最終年度は,これらの研究成果を総合して,多重画像のための測定システムを提案することを目標とする.
次年度は,陽子線治療施設や検出器の違いが,画像化に与える影響について評価を行うことが主な実施内容となる.そのため,効率的に複数の画像を定量的に比較評価する方法を開発して用いる. 多くの画像データの定量的な評価を行うための物品費として,画像処理用コンピュータを購入する.本年度の研究の過程で,複数枚の画像間の比較をガンマ・インデックス法等を用いて定量的に評価するためには,計算時間として通常のコンピュータでは1日程必要であることがわかっている.そのため,画像処理用コンピュータの画像処理機能を補強することが必要であると判断した.本年度経費で実施予定の研究連携者との打ち合わせ旅費のうち,電話や電子メールによって実施することができたものについて生じた未使用額を,次年度購入予定の画像処理用コンピュータの導入を増強するための汎用グラフィック計算処理基板(GPGPU)の購入に当てて機能強化を図る. その他に,陽子線治療施設のシミュレーション検証,検出器パラメタのシミュレーションへの導入など,本年度収集した治療装置や検出器情報を活用して研究を進めるために,治療施設等に携わる研究連携者との研究打ち合わせを定期的に行うことが必要であり,国内旅費に利用する.
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Progress in Nuclear Science and Technology
巻: Vol. 2 ページ: 912-917