研究課題/領域番号 |
23540353
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研究機関 | 独立行政法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
西森 信行 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 量子ビーム応用研究部門, 研究副主幹 (60354908)
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キーワード | マイクロバンチ不安定性 / 光陰極DC電子銃 / スミス・パーセル放射 / 遠赤外光 / ERL |
研究概要 |
X線自由電子レーザー(XFEL)研究開発の過程で発見されたマイクロバンチ不安定性について、その由来と増幅メカニズムを明らかにすることが目的である。本研究課題では、原子力機構で開発を行っている光陰極DC電子銃からの高輝度電子ビームのマイクロバンチ測定を行う。最もゲイン(増幅率)の高いマイクロバンチ波長は遠赤外波長領域にあることが知られており、測定の容易な周波数ドメインで実験する。 本年度は、(1)光陰極DC電子銃を完成し、(2)KEKコンパクトERLでのマイクロバンチ直接測定の可能性についての計算を行った。また、(3)理研播磨XFELのマイクロバンチ不安定性実験に参加した。 (1)は本研究を推進するうえで基盤となる課題であり、別途研究開発を実施している。本年度、光陰極DC電子銃から世界初の500keV電子ビーム生成に成功し、平均電流1.8mAを実現した。エネルギー180keVではあるが、10mAビームの生成にも成功し、目標に掲げていた電子ビームエネルギーと電流をそれぞれ独立に達成した。この開発成功により本電子銃のコンパクトERLへの移設が正式に決まり、本年度10月から作業を進めている。 このように500kV電子銃が加速器システムに組み込まれたため、当初予定していた電子銃からのビームを直接用いて、本研究を実施することが困難となった。そこで、(2)コンパクトERLの超伝導加速器で加速後の電子ビームを用いて本研究を実施できるか計算したところ、電子銃部で作ったマイクロバンチ構造が崩れてしまうために、実験が困難であることが判明した。 (3)は、理研播磨のXFELの試験装置であるSCSSで行われた実験に参加したものである。SCSSでは、これまでマイクロバンチ不安定性が観測されてなかったが、強く電子バンチ圧縮を行うとマイクロバンチ不安定性が発生することが実験的に明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、(1)スミス・パーセル放射光計測装置を用いたビーム試験の実施、(2)光陰極DC電子銃の高度化、(3)コンパクトERLにおけるマイクロバンチ不安定性ゲインの計算を行う計画であった。 (1)のスミス・パーセル放射光計測装置を用いたビーム試験は未実施である。その理由は、500kV光陰極電子銃開発の最大の目標である500keVビーム発生試験がコンパクトERLへの移設直前の10月まで続けられ、スミス・パーセル放射光実験をする時間的余裕がなかったためである。また、東日本大震災に伴う我々の実験室建屋の改修工事が10月から年度末まで実施されたため、別の電子銃を用いた実験を行うこともできなかった。 (2)の光陰極電子銃の高度化は、世界初の500keV電子ビーム生成、10mAビーム生成を達成し、計画通りに終えた。また、今年度に予定していたフェムト秒チタンサファイアレーザーのレーザーダイオードの修理も予定通り終えた。 (3)コンパクトERLのマイクロバンチ不安定性ゲインを測定するには、電子銃直後のマイクロバンチを測定する必要がある。しかしながら、現時点でスミス・パーセル装置をコンパクトERL電子銃の直後に設置するのは極高真空の要求やスペースの問題があり困難である。また、通常の運転に用いられるピコ秒レーザーの代わりにフェムト秒レーザーを設置することも現時点では難しい。そこで、ピコ秒レーザーを用いて入射加速器後のマイクロバンチの計算を行ったが、電子銃で作ったマイクロバンチ構造が思うように保存されないことがわかった。 以上のことから、研究実施計画からやや遅れていると考える。今年度は、コンパクトERLでのマイクロバンチ不安定性の研究を一旦断念し、我々グループの所有する250kV光陰極電子銃を用いてマイクロバンチ不安定性のメカニズムとその由来について、実験を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、実験室建屋の改修工事の終了に伴い稼働できる状態になった250kV光陰極電子銃にフェムト秒レーザー装置とスミス・パーセル放射光計測装置を組み込み、ビーム試験を実施する。レーザーのパラメーターやエネルギーを変えながら、計測を繰り返し、マイクロバンチ不安定性のメカニズムとその由来について、実験を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
スミス・パーセル実験に必要な15マイクロメートル間隔の回折格子費として297千円、レーザーのマイクロパルス列を作るためのYVO4結晶費として450千円、検出器に必要な液化ヘリウム100リットルとして187千円、液化窒素400リットルとして69千円を予定している。また、FEL2013への参加発表として300千円を予定している。
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