研究課題/領域番号 |
23540354
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
中村 誠一 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 加速器科学支援センター, シニアフェロー (70391729)
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研究分担者 |
幅 淳二 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 教授 (60180923)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | REGEM / 導電性高分子 / DEPOT/PSS / メラミン樹脂 / ポリイミドフィルム / 表面改質 / 密着性 |
研究概要 |
【導電性高分子コーティング剤】 ポリチオフェン系の導電性高分子PEDOT/PSSをGEMの電極材料の一つとして考えている.しかし,PEDOT/PSSは水分散体として優れた分散性と保存安定性があるが,水分散液を単体としてコーティング剤としては使えなかった.そこで,バインダーとしてメラミン樹脂を加えた.これによって,PSSのスルホン酸基をメラミン樹脂のアミノ基でイオン会合によって拘束することができ,また,余剰のスルホン酸基にキャップを被せることができ,PEDOT/PSSを固定でき,かつ,吸水性の原因を除いた.得られたコーティング膜は,表面抵抗率 10e+6 Ohm / sq. を中心に±2桁の範囲で抵抗値を変えられ,安定性の良く,耐水性に優れる,膜厚0.2 μm 程度,等々の性能を持つ.これは,導電性有機高分子を実用化に近づける成果である.【表面改質】 我々の目的であるGEMを作るには微細加工を必要とし,大面積,低コストのGEMを作ろうとするならば,ウェットエッチング技法が常法となる.ここで,簡単な前処理だけでのコーティングでは膜の端部がかなり剥げてしまい,コーティング膜の密着性が問題となった.エッチング液の強力な化学的作用に耐える強力な密着性が必要である. この解決のためにポリイミドフィルムの表面改質を実施した.初めに水酸化カリウムの加水分解作用により表面にカルボキシル基を生成した.次に,このカルボキシル基にジグリコールアミン(DGA)をアミド結合させ,先端にヒドロキシル基をもつちょっと長い結合手を表面に化学修飾させた.こうすることによって,コーティング膜がポリイミドフィルム表面に化学的に結合し,密着性が格段に向上した.このような表面改質を行った結果,導電性高分子コーティング膜のあるポリイミドフィルムでも微細なウェットエッチングができることを確かめた.これが第二の成果である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
この研究で達成したいことに次の三点を挙げた.(1)導電性かつ感光性コーティング剤の開発をすること,(2)高抵抗性電極を持つ,大面積かつ安価なREGEMフィルムの可能性を示すこと,(3) REGEM が長期的な安定性と信頼性を一層高めること.平成23年度は(1)を達成することであり,実現できた.ただし,「感光性」については追及していない.最終的な目標である(3)を最優先に考えれば,「感光性」の優先度は低く,(2)の目標を優先させ,REGEMフォイルを実現させることに今現在集中しているところである.ウェットエッチングの目処も立ち,REGEMフォイルの微細加工法を検討する段階に達している. また,導電性高分子DEDOT/PSSが使用不可の場合を考えて,代替としてカーボンブラックを導電性フィラーとするコーティング剤も並行して試験していて,可能性や有用性の感触を得ている.
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今後の研究の推進方策 |
DEPOT/PSSとメラミン樹脂によるコーティング剤がGEMの電極材料として可能性を確かめたので,これを使ってREGEMフォイルを製作し,REGEMの性能試験を実施する.特に,大放電につながる高ゲイン動作や高濃度初期電子密度入射に対する動作を試験する.金属製電極のGEMと比較し,REGEMの有用性を実証したい. また,PEDOT/PSSの代替としてカーボンブラックによるコーティング剤も手を付けていて,その可能性は準備的試験だが有用と考えている.開発はDEPOT/PSSの次になる.少なくとも二種の導電性コーティング膜によるREGEMを使用して,電気抵抗性素材の有用性を試験したい.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度において未使用額が発生したが,主として旅費に予定していたものである.早く進みREGEMフィルムの製作でウェットエッチング等の打合せに製作会社に出向くことを想定していて,平成23年度に支出を予定していた.この分は平成24年度に繰り越すことになる. 平成24年度は,DEPOT/PSSとメラミン樹脂によるコーティング剤を使ったREGEMフォイルの製作と,REGEMフォイルを使ったガス検出器にほとんどの研究費が費やされる. また,代替品を作るにも同等の費用がかかる.
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