電荷、スピン、軌道、格子と言った複数の自由度が複雑に絡み合った物質におけるモット転移の機構ならびに電子状態の解明を非直交マルチスレーター行列式を用いた高精度電子状態計算(共鳴Hartree-Fock法)を用いて行った。特に、格子を非断熱的に扱い、その量子揺らぎを取り込む計算手法は、これまでにない新しい理論であった。
最終年度では、この手法をポリアセチレンの電子状態解明に適用した。ポリアセチレンに代表される導電性ポリマーにおいて、高ドープ領域における金属性と格子歪の共存は長年の未解決問題であったが、格子の非断熱的量子揺らぎを取り込むことで、格子歪を有しながら金属的になる様子を再現することに成功した。これらの結果が、角度分解光電子分光法により得られたスペクトルを、エネルギーに関して積分した状態密度の波数依存性から得られることも明らかにした。本研究は、現在論文として執筆中である。 この他、軌道縮退系物質であるSrVO3においては、軌道間相互作用の交換項により、軌道の再構築が起こりエネルギーの低い軌道で電子の占有確率が高くなり、絶縁体に近い金属になることを明らかにした。これまでの角度分解光電子分光の実験結果も矛盾なく説明するものである。現在、ハイブリッド法で交換項を求める密度汎関数法による再現計算を行っており、共鳴Hartree-Fock法による結果は、密度汎関数法によっても再現できることが固まりつつある。本研究も論文として執筆中である。
本研究により、多自由度系におけるモット転移を中心とした電子状態を、直観的、視覚的に理解できるようになり、物質設計における新しい視点を提供できるようになった考えている。
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