研究課題/領域番号 |
23540360
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
日野 健一 筑波大学, 数理物質系, 教授 (90228742)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | コヒーレント振動 / 超短パルスレーザー / 半導体ブロッホ方程式 / ファノ共鳴 |
研究概要 |
今年度は、バルク半導体(GaAsおよびSi)にサブフェント秒領域の高強度超短パルスレーザーを照射した際生成されるコヒーレント振動ダイナミックスを理論的に解析するため、半導体ブロッホ方程式(SBE)に基づいた定式化を行い、試行的な数値計算を実行した。従来の理論においては、系としてGaAsを想定してフレーリッヒ型電子‐LOフォノン相互作用を採用し、伝導帯および価電子帯各一本のみを取り込んだ2バンド近似の範囲内でモデル化を行っている。さらに、観測量であるラマンスペクトルは、時間依存シュレディンガー方程式を直接数値計算することにより求めている。よく知られているp-Siにおけるフォノン起因のファノ共鳴は、重い正孔と軽い正孔に対応する2本の価電子帯の干渉効果により理解される。そこで、本研究では、それに伝導帯1本を加えた3バンド近似のモデルを構築し、GaAs系に加えて、変形ポテンシャル型電子‐LOフォノン相互作用が支配的なn-Si系をも取り込んだ定式化を行った。さらに、従来のモデルでは無視されてきた電子間の多体効果および正孔‐フォノン相互作用を取り込んだ解析を行った。従来のモデルの結果と比較し、上記の個々の物理的効果の重要性を調べることを目的とした。本研究におけるSBEには、電子および正孔の密度行列に加え、3体演算子であるフォノン媒介密度行列(3次元ブロッホ運動量3つに対応する3次テンソル)が取り込まれるため、このままではこの密度行列のサイズが巨大になり現実的な数値計算の実行は不可能である。そこで、離散変数表示と角運動量表示を組み合わせた密度行列の新たな展開法を開発し、実行可能なレベルの範囲で級数を切断近似することを行った。現在、収束性の確認などデモ計算の途中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
密度行列を離散変数表示(DVR)と角運動量表示を組み合わせた展開法で表示する際、数値的に実現可能な項数(行列のサイズの大きさ)がいか程までであるかを、計算時間と搭載実メモリー容量との兼ね合いから調べることが必要になる。DVR基底数を少数に限定し、さらに角運動量をsとpタイプに限定して、計算プログラムの数値精度のチェックを行っている途上である。
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今後の研究の推進方策 |
現実的なレベルに対応するためには、現在のデモレベルの行列サイズでは不十分と案じられる。そこで、当該系のコヒーレントフォノン生成は、LOフォノンの運動量が零近傍で支配的であると考えられるので、この微小領域にフォノン運動量を限定したモデルの定式化を行うことを計画している。これにより、数値計算が実行可能レベルまで軽減されることを期待する。以上の大規模数値計算に基づくアプローチのほかに、ファノ‐アンダーソンHamiltonianを出発点とするより現象論的な理論の構築を行いたい。両者の結果の比較により、本研究対象のような超高速過程におけるファノ共鳴の機構を解明することを目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は当初予定していたクラスター型計算機の購入を見送った。理由の一つは、現状での数値デモ計算の実行規模が既存の施設で十分なレベルであったことに加え、インテルによる1ノード16コアの最新レベルのcpuの販売が年度末まで遅れたことが主因である(この一因は震災の影響によるとのことである)。次年度は、早々にこの新型マシンを購入する予定である。その際、科研費使用の柔軟化により、他の課題との相乗りも可能になったので、当研究室助教の前島展也氏の研究課題(若手B:23740232)の次年度予算と一部合算したうえで、より高性能のマシンを購入し研究環境の強化を図りたい。また、次年度は励起子国際会議および半導体国際会議でも発表が決定しているので、大学院生のべ3名を加えた海外渡航費の出費を予定している。
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