半導体に超短パルスレーザー(数10fs程度)を照射した際誘起されるコヒーレントフォノン生成機構の理論的解明を進めた。n-Siのような非極性半導体では、パルス照射直後100fs程度までの初期時間領域において、特徴的な過渡的なFano共鳴(FR)が発現すると考えられている。この際、電子とLOフォノンが強く結合したポーラロニックな準粒子が生成すると示唆されている。一方、n-GaAsのような極性半導体ではFRは発現しないが、非極性系では確認されていないLOフォノンとプラズモンの結合モード(LOPC)が観測されている。このような極性および非極性半導体では電子のLOフォノンはそれぞれフレーリッヒ相互作用および変形ポテンシャル相互作用によって結合するが、この相違が何故にコヒーレントフォノン生成初期時間の量子効果に異なる物理現象を引き起こすか不明である。 そこで、当該系の特徴であるポーラロニック準粒子やプラズモンを統一的に記述するため、電子系の誘起分極に対応する演算子とフォノン演算子からなる複合演算子を定義し、これの時間発展を解析した。この複合演算子はある近似下で(擬)ボゾン演算子とみなせ、時間ごとに定義される(断熱的な)固有状態は、エネルギー的に離散的なフォノンとプラズモンおよびエネルギー的に連続的な電子正孔系から成り、過渡的FR状態およびLOPCモードを統一的に表すことが可能である。 まず、過渡的FRの発現機構を解明するためにプラズモンの寄与を無視したモデルで解析した。この(擬)ボゾン演算子がFano-Andersonハミルトニアンの近似解になることを利用して、古典的な格子振動に対応するフォノン演算子の期待値の時間発展を求めた。これにより、n-Siの特徴である初期時間領域での不規則振動および対応する周波数スペクトルにおけるFRに特徴的な非対称スペクトルの発現を見出すことに成功した。
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