研究課題/領域番号 |
23540362
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
中村 正明 東京工業大学, 理工学研究科, 特任准教授 (50339107)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 量子ホール効果 / グラフェン / カゴメ格子 |
研究概要 |
分数量子ホール効果は最低ランダウ準位の占有率νが奇数分母の規約分数のとき、強い電子相間のためにホール伝導率が量子化される現象である。この現象に対する新しいアプローチの一つとして、一次元定式化による研究が進んでいる。これは、2次元電子系をランダウ・ゲージとトーラスの境界条件を用いて扱い、トーラスの太さを細くしていった極限(Tao-Thouless極限)を起点として1次元系の問題に焼きなおすものである。この手法を用いて量子ホール系を量子スピン鎖との対応関係を調べた。その結果、ν=p/(2p+1)の系列で与えられるJainの系列がS=pのスピン鎖と対応することが分かった。これは整数スピンにおいてエネルギーギャップが開くとするハルデン予想と、奇数分母のみで起こる量子ホール効果を関連付けるものであると考えられる。また、グラフェンが積層した多層グラフェンにおいて、電気伝導率やホール伝導率の寄与を特定の2層の間の伝導率として分解した、Layer Resolved Conductivity (LRC)の計算を行った。この伝導率は例えば多層系が単層系と接合されている場合など、一部の層のみにバイアス電圧がかかった場合における伝導を表すと考えられる。このLRCについて、系に垂直磁場がかかっている場合について、層数や電極の位置、積層構造よる特性の違いについて調べた。特に自然界に多く存在するAB積層型の場合、二つの電極の位置が4層以上離れるとほとんど伝導がないこと、ホール伝導率の量子化が起こらないことなどを明らかにした。また、1/3フィリングのカゴメ格子系のモット転移に関して、スペクトル関数を計算し、相転移の様子を解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
我々は量子ホール状態の1次元化の手法に基づき、占有率が1/3の場合について、射影演算子の方法でTao-Thouless極限近傍で厳密に解ける模型が構成できることを見出した。この模型の波動関数は超伝導のBCS理論に類似した形を持ち、行列積法で波動関数を記述することで、相関関数や秩序変数などの計算が可能となった。また、励起エネルギーの計算も変分法の範囲内で精密に行うことができるようになった。この研究はすでにプレプリント(arXiv:1110.5033)として公開され、審査中である。これは非常に重大な進展であり、いろいろな派生型の研究が考えられる。また、グラフェンに関する研究でも層間伝導に関する計算を遂行して研究成果を上げることができたので、順調に成果が上がっていると言える。
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今後の研究の推進方策 |
分数量子ホール効果に関する問題として、最低ランダウ準位の占有率が1/3の場合について厳密な基底状態を持つ模型の構成とその解析がすでに成功している。この手法を拡張して、一般の1/q (q: 奇数)の占有率の場合について同様の研究を行うことを考えている。この場合、模型のパラメータの自由度が増えるが、モデルを構成する際に用いられる擬ポテンシャルの自由度も増えることから、両者に深い対応関係があると考えられる。また、なぜqが奇数に対してのみ量子ホール状態となるのか、という問いにも同じ立場から説明を与えたい。また、フェルミ粒子系とボーズ粒子系の違いについても一般的に考察できると考えている。グラフェンに関してはひねった積層型における相間伝導や、異なる積層状態の2つの系の接合した場合について計算を行いたいと考えている。また、カゴメ格子系のスピン系における磁化過程に関する理論的な解析も行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度は数値計算よりも解析計算による研究の比重が増し、数値計算のための計算機の購入を見送ったため、執行額に残額が生じた。その繰越金も含めて、本年度は海外の研究機関、国際学会などへ海外出張旅費、国内の学会およびセミナー発表のための国内旅費、研究補助やセミナーの開催の謝金、数値計算のための計算機とその周辺機器の購入、といった使用を予定している。
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