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2012 年度 実施状況報告書

2次元量子系におけるトポロジカルな秩序と新奇な輸送現象

研究課題

研究課題/領域番号 23540362
研究機関東京工業大学

研究代表者

中村 正明  東京工業大学, 理工学研究科, 特任准教授 (50339107)

キーワード量子ホール効果 / エンタングルメント・スペクトル / エッジ状態 / 厳密解
研究概要

分数量子ホール効果とは、最低ランダウ準位の占有率νが奇数分母の規約分数のとき、強い電子相間のためにホール伝導率が量子化される現象であり、現在でも強相関量子系の重要な研究テーマとなっている。近年、この現象を理解するための新しいアプローチの一つとして、1次元定式化による研究が進んでいる。これは、2次元電子系をランダウ・ゲージとトーラスの境界条件を用いて第2量子化することで、1次元の格子模型の問題に焼きなおすものである。このとき、格子模型の相互作用はトーラスを細くするほど短距離的なものになるが、トーラスの変形に対して系が相転移が起きないことから、トーラスを細くしていった極限(Tao-Thouless極限)を起点として短距離相互作用を持つ1次元格子模型を構築すれば分数量子ホール系を定性的に記述することが可能となる。
我々はこの手法を用いてν=1/3の分数量子ホール系を記述する厳密な基底状態をもつ模型を見出した。さらに、この基底状態波動関数が行列積法によって書けることを示し、種々の物理量を解析的に求めることを可能にした。さらにこの方法を一般のラフリン状態ν=1/q (qは奇数)に拡張することにも成功した。この時、解析的な物理量の計算により、トーラスを太くするにしたがって、系が電荷密度波状態から一様な量子ホール液体状態に連続的に移行する傾向にあること、また、エンタングルメント・スペクトルの計算により、エッジ状態が
カイラル朝永ラッティンジャー液体として振る舞うことを確かめた。また、励起スペクトルが超流動のロトン励起と同じ構造を示すことを行列積法による変分計算によって解析的に導いた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

我々は今年度までに分数量子ホール状態の1次元化の手法に基づき、占有率が1/q (qはフェルミオンの時は奇数でボゾンでは偶数をとる)の場合について、射影演算子の方法でTao-Thouless極限近傍で厳密に解ける模型が構成できることを示し、波動関数が行列積の方法で与えられ、相関関数、秩序変数、エンタングルメントスペクトルといった種々の物理量が解析的に計算できること、またフェルミオンとボゾンの関係など、ラフリンの波動関数と同じ情報が自然に得られることなどを議論した。また、励起エネルギーの計算も変分法の範囲内で精密に行うことができるようになった。この研究はPhysical Review Letter誌などに発表され、大きな反響を呼んでいる。これは分数量子ホール効果の研究において非常に重大な進展であり、いろいろな発展が考えられる。

今後の研究の推進方策

分数量子ホール効果に関する問題として、前年度に考えていた課題はすべて解決することができた。今年度はまず我々が構築した分数量子ホール状態を記述する模型において、エネルギーギャップが存在することの厳密な証明を行いたいと思っている。このような研究は量子スピン系においてはよくおこなわれていたが、分数量子ホール系に対して行われる例はなかった。これに関しては量子スピン系に用いられてきたKnabeの定理の拡張が必要となる。また、スピン自由度のあるν=2/3の系での量子相転移の問題、ν=5/2の系でのパフィアン状態等についても同様なアプローチを行いたい。特に後者においては3体の相互作用を持った模型の解析が必要になると考えられる。

次年度の研究費の使用計画

昨年度は数値計算よりも解析計算による研究の比重が増し、数値計算のための計算機の購入を見送ったため、執行額に残額が生じた。
その繰越金も含めて、本年度は海外の研究機関、国際学会などへ海外出張旅費、国内の学会およびセミナー発表のための国内旅費、研究補助やセミナーの開催の謝金、数値計算のための計算機とその周辺機器の購入、といった使用を予定している。

  • 研究成果

    (9件)

すべて 2013 2012

すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 2件)

  • [雑誌論文] Exactly solvable model for Laughlin states on torus geometry2013

    • 著者名/発表者名
      Zheng-Yuan Wang and Masaaki Nakamura
    • 雑誌名

      Physical Review B (arXiv:1206.3071))

      巻: 未定 ページ: 未定

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Matrix-Product Ansatz for Excited States of Fractional Quantum Hall Systems2013

    • 著者名/発表者名
      Zheng-Yuan Wang and Masaaki Nakamura
    • 雑誌名

      The Physical Society of Japan Supplement (arXiv:1301.7549)

      巻: 未定 ページ: 未定

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Exactly Solvable Fermion Chain Describing a ν=1/3 Fractional Quantum Hall State2012

    • 著者名/発表者名
      Masaaki Nakamura, Zheng-Yuan Wang, and Emil J. Bergholtz
    • 雑誌名

      Physical Review Letters

      巻: 109 ページ: 016401-1-4

    • DOI

      10.1103/PhysRevLett.109.016401

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Spin-chain description of fractional quantum Hall states in the Jain series2012

    • 著者名/発表者名
      Zheng-Yuan Wang, Shintaro Takayoshi, and Masaaki Nakamura
    • 雑誌名

      Physical Review B

      巻: 86 ページ: 155104-1-7

    • DOI

      10.1103/PhysRevB.86.155104

    • 査読あり
  • [学会発表] Exactly solvable 1D lattice model for fractional quantum Hall states and its entanglement spectra2013

    • 著者名/発表者名
      M. Nakamura
    • 学会等名
      JAEA Synchrotron Radiation Research Symposium "Magnetism in Quantum Beam Science"
    • 発表場所
      Spring-8, Hyogo, Japan
    • 年月日
      20130311-20130313
    • 招待講演
  • [学会発表] 非アーベリアン分数量子ホール状態の1次元定式化と行列積表現2013

    • 著者名/発表者名
      中村正明, 汪正元
    • 学会等名
      日本物理学会
    • 発表場所
      広島大学
    • 年月日
      2013-03-27
  • [学会発表] 量子スピン系の手法による分数量子ホール効果へのアプローチ2012

    • 著者名/発表者名
      中村正明
    • 学会等名
      京都大学基礎物理学研究所研究会 「量子スピン系の物理」
    • 発表場所
      京都大学基礎物理学研究所
    • 年月日
      20121112-20121114
    • 招待講演
  • [学会発表] 分数量子ホール効果の1次元格子模型と厳密解による定式化2012

    • 著者名/発表者名
      中村正明、汪正元
    • 学会等名
      日本物理学会
    • 発表場所
      横浜国立大学
    • 年月日
      20120918-20120921
  • [学会発表] Exactly solvable 1D lattice model for the Laughlin states on torus geometries and its entanglement spectra2012

    • 著者名/発表者名
      M. Nakamura
    • 学会等名
      International workshop on Entanglement Spectra in Complex Quantum Wave functions (esicqw12)
    • 発表場所
      Dresden, Germany
    • 年月日
      2012-11-15

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公開日: 2014-07-24  

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