研究課題/領域番号 |
23540368
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研究機関 | 和歌山大学 |
研究代表者 |
伊東 千尋 和歌山大学, システム工学部, 教授 (60211744)
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研究分担者 |
木曽田 賢治 和歌山大学, 教育学部, 教授 (90243188)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | フーリエ変換赤外分光法 / ステップスキャン / 時間分解測定 / 擬一次元電荷移動錯体 / 光誘起相転移 / 分子構造 |
研究概要 |
平成23年度は、「TTF-CA結晶における光誘起相の分子構造と電荷移動状態」の研究に焦点を絞って、研究をおこなった.1kHz繰り返しのLD励起レーザを導入することにより、950~8000cm-1の範囲で、時間分解能10ns、波数分解能4cm-1の時間分解フーリエ変換赤外スペクトル測定が可能となった.この装置を用いて、イオン性相TTF-CA結晶をパルスレーザ励起することによって生じる赤外反射スペクトル変化を時間分解測定した.パルスレーザ照射により、イオン性相TTF-CA結晶の特徴である構成分子の全対称(ag)モードに起因する反射ピークに大きな強度減少が生じることを見出した.agモードの強度減少の時間変化を詳細に調べたところ、ピーク強度の減少は装置の時間分解能以内で生じ、その後、2μ秒以内の速い変化と100μ秒以上の時定数を持つ遅い変化の2つのプロセスにより強度回復が生じることが分かった.agモードの2μ秒以内の速い変化に対応する反射強度の増大が、1610~1640cm-1の範囲で生じることを見出した.この領域はカルボニル基がピークが現れる領域と一致していることから、この速い変化を光誘起相中のCAに由来するカルボニル基に起因すると結論した.中性相TTF-CAとイオン性相TTF-CAのカルボニル基の位置、および判明している電荷移動度を用いて、光誘起相の電荷移動度をρ=0.5±0.1と見積もった. 6000~8000cm-1に現れるCT帯の時間変化を見ると、遅い時間変化に対応する反射強度変化のみが観測される.その遅い時間変化から、ソリトン等の準安定状態に起因すると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画の通り、LD励起レーザを導入することにより、950~8000cm-1の範囲で、時間分解能10ns、波数分解能4cm-1の時間分解フーリエ変換赤外スペクトル測定が可能となった.これにより、研究実績の概要に記した成果を上げることができた.しかしながら、同装置の納入時期が年度後半にずれ込んだため、詳細な励起強度依存性を測定するには至っておらず、光誘起相の構造を反映するスペクトル変化とソリトン等の準安定状態の構造を反映するスペクトル変化の峻別が十分できていない.また、励起強度が光誘起相の構造に及ぼす影響も明らかではない.この点で、当初計画を上回る成果を上げるには至っていない.
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今後の研究の推進方策 |
TTF-CA結晶の光誘起相の構造の解明に関して、平成23年度中に実施できていない、時間分解反射スペクトル変化の詳細な励起強度依存性測定を行い、光誘起相の構造を反映したピークとソリトン等の準安定状態に起因するスペクトル変化を峻別し、光誘起相の構造を明らかにすると、光誘起相形成と準安定状態への分岐比の励起強度依存性を明らかにする研究を行う. さらに、「TTF-BA結晶における光誘起相の収率および光誘起相の分子構造」に着手する. TTF-BA結晶の磁性転移は構成分子の電荷状態変化を伴わない.このため,分子内遷移に起因する可視反射帯の強度変化をプローブとした研究が困難であり,我々が見出した光励起によるag モードのピーク強度減少が,光誘起相転移を示唆する唯一の実験結果である.そこで,パルスレーザ励起で生じるagモードの強度変化と,他の分子振動やCT帯のピーク位置と反射強度の時間変化,およびそれらの励起強度依存性を測定し,光誘起相の収率,および光誘起相と緩和励起状態の分子構造を明らかにする.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度の研究により得られた成果を第10回凝縮系における励起子過程国際会議(EXCON2012, フローニンゲン/オランダ王国 開催)で報告するために海外旅費を支出する.その他、研究費を研究の実施に不可欠な消耗品の購入に充てる.
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