研究課題/領域番号 |
23540368
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研究機関 | 和歌山大学 |
研究代表者 |
伊東 千尋 和歌山大学, システム工学部, 教授 (60211744)
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研究分担者 |
木曽田 賢治 和歌山大学, 教育学部, 教授 (90243188)
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キーワード | 光誘起相転移 / フーリエ変換赤外分光法 / ステップスキャン時間分解測定 / 擬一次元電荷移動錯体 / 分子構造 |
研究概要 |
平成24年度は、「TTF-CA結晶における光誘起相の分子構造と電荷移動状態」について研究をさらに進めた。昨年までの研究で、時間分解フーリエ変換赤外反射分光測定により、光誘起相に起因すると信号が測定できていた。この測定では、全対称伸縮振動(ag)モードには、光誘起相の形成を示す2μ秒以内の速い変化と100μ秒以上の時定数を持つ遅い変化の2つが存在するが、電荷移動モードは100μ秒以上の時定数を持つ遅い変化のみを示すことが問題であった。そこで、電荷移動帯のほぼ全域で532nm ナノ秒パルスレーザ励起によって生じる過渡変化を測定した。その結果、レーザ励起によって誘起される反射強度の変化率が高波数域ほど大きくなることがわかった。電荷移動帯はイオン性相と中性相でほぼ重なっているため、光誘起相の形成に伴うイオン性相の反射変化と光誘起相形成に伴う反射変化がほぼ同強度でされるために相殺され、光誘起相の形成に伴う速い減衰成分がみられないものと考えられる。一方、遅い変化はスピンソリトンの形成等のイオン性相の乱れの発生に伴う可能性が高く、光誘起相や中性相への変換を伴わないため、変化が観測されると考えられる。 反射測定の場合、測定波数によりプローブ光の光学的浸透深さが異なるため、定量的な解析を行う上で問題であった。この問題を解決するために、TTF-CA結晶薄膜を作製し、時間分解過渡赤外吸収測定を予備的に行った。この結果、カルボニル基に起因する伸縮振動やagモードの変化を測定することができた。 「ポリジアセチレンにおける光励起による側鎖構造のゆらぎとPIPT の関係」に関して、ポリジアセチレン薄膜の作製方法を確立し、時間分解過渡光吸収測定による緩和励起状態の研究に道筋をつけた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究に関連して、論文1編、国際会議発表3件、国内会議発表5件を発表し、順調に成果を上げることができている。 研究課題面をみると、過渡変化の強度依存性の測定が未だ十分測定できていない。これは、装置の信号対雑音比(SN)が十分でないことが原因であった。平成24年度の研究推進において、この点について詳細な検討を重ね、冷凍機の振動による干渉計の揺れが原因であることを突き止めた。これを改善することにより、SNを大きく改善することができた。これにより、今後の成果が見込まれる状態に改善できた。
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今後の研究の推進方策 |
「TTF-CA結晶における光誘起相の分子構造と電荷移動状態」に関して、時間分解赤外反射測定と薄膜試料を用いた時間分解過渡赤外吸収測定を行い、両者の比較を通じて、本研究の目的である光誘起相の構造解明を進める。特に、薄膜試料を用いた時間分解過渡赤外吸収測定に注力し、反射スペクトルでは露ではなかったTTF分子に由来する振動スペクトルの変化を詳細に測定する。 さらに、「TTF-BA結晶における光誘起相の収率および光誘起相の分子構造」に着手する。 TTF-BA結晶の磁性転移は構成分子の電荷状態変化を伴わないため、分子内遷移に起因する可視反射帯の強度変化をプローブとした研究が困難であり、我々が見出した光励起によるag モードのピーク強度減少が、光誘起相転移を示唆する唯一の実験結果である。そこで、パルスレーザ励起で生じるagモードの強度変化と、他の分子振動やCT帯のピーク位置と反射強度の時間変化、およびそれらの励起強度依存性を測定し、光誘起相の収率、および光誘起相と緩和励起状態の分子構造を明らかにする。 また、「ポリジアセチレンにおける光励起による側鎖構造のゆらぎとPIPT の関係」に関して、ポリジアセチレン薄膜を用いて時間分解過渡赤外吸収測定を行い、レーザ照射によって形成される緩和励起状態に起因する吸収帯を特定するとともに、その変化に伴う振動スペクトルの変化を明らかにし、緩和励起状態の分子構造を明らかにする研究を行う。さらに定常励起下ラマン散乱測定により、主鎖の二重結合および三重結合の状態変化を励起強度の関数として明らかにし、結合に局在する電子密度の変化と側鎖の変化を関連づける。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究計画の最終年度に当たる次年度は研究の遂行上必要な消耗品の購入、および成果発表に係る旅費の支出を行う予定である。50万円以上の装置を購入する計画はない。
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