研究課題/領域番号 |
23540368
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研究機関 | 和歌山大学 |
研究代表者 |
伊東 千尋 和歌山大学, システム工学部, 教授 (60211744)
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研究分担者 |
木曽田 賢治 和歌山大学, 教育学部, 教授 (90243188)
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キーワード | 光誘起相転移 / フーリエ変換赤外吸収分光法 / ステップスキャン時間分解測定 / 擬一次元有機電荷移動錯体 / TTF-CA結晶 / スピンソリトン / 電荷移動度 |
研究概要 |
TTF-CA薄膜結晶の作製を行い、これを用いた時間分解過渡赤外吸収測定を実施することに注力した。これまで赤外反射光をプローブとした測定では、波長により浸透長が大きく異なるため、吸収変化量を異なる波長で比較できない。さらに、照射レーザ光が試料表面近傍でほぼ完全に吸収されるため、照射による試料温度上昇を回避できないという問題点もあった。これらを解決するために、結晶の育成条件を検討し、厚み10μm以下の薄膜結晶の作製した。これを用いて、5Kでの523nmレーザパルス照射によってイオン性相にあるTTF-CA結晶に誘起される赤外吸収変化をステップスキャンフーリエ変換時間分解赤外吸収法により測定した。レーザ照射による温度上昇を1600cm{-1}付近に現れるCA分子イオンのカルボニル基伸縮振動(C=O (I))のピークシフト量により評価すると、実験で用いた最大のレーザ強度において約40Kであった。これより、レーザ照射によるスペクトル変化は、温度相転移により生じたのでは無いことが示された。照射による赤外吸収スペクトルの変化は、反射測定により得られた結果とほぼ同様であったが、反射測定により光誘起相に起因すると結論したおよそ3μs以内に消失する変化に加えて、CA分子イオンに起因する振動、TTF分子イオンに起因する振動、およびCA分子イオンのC-Cl結合振動に、10μs程度の遅い時間で回復する変化を見出した。これら変化は、反射測定では不明であったC=O (I)の回復挙動に対応している。C=O (I)吸収に生じる減少分と光誘起相中のCA分子に起因するカルボニル基吸収の増加分をレーザ強度に対してプロットすると、前者は原点を通る直線上に乗るのに対して、後者はしきい値を持って増加する挙動を示すことがわかった。この結果より、μs程度の寿命を持つ光誘起相の形成には照射強度にしきい値を持つことが明らかとなった。C=O (I)吸収の変化は、スピンソリトンに起因すると考察した。
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