研究課題/領域番号 |
23540369
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研究機関 | 和歌山大学 |
研究代表者 |
秋元 郁子 和歌山大学, システム工学部, 准教授 (00314055)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 光物性 / 電子・電気材料 / 物性実験 |
研究概要 |
本研究では、電子や正孔がもつスピン自由度に着目し、パルス光励起に引き続くパルス電子スピン共鳴(ESR)法とパルス電子‐電子二重共鳴(ELDOR、DEER)法を用いて、過渡的状態にある電子と正孔の空間分布配置をマッピングし、時間のべき乗で減衰する再結合発光の再結合確率分布を実験的に検証することを目的とする。すなわち、低温において光パルスで生成した数マイクロ秒から数ミリ秒持続するESRアクティブな電子励起状態をパルスESR法で時間分解的に測定する必要がある。H23年度は、オプティカルアクセスの良いスプリットリングレゾネーターを購入し、光照射下でのパルスESR測定が容易にできるように準備した。一方で、再結合発光が観測できる物質系の選定が重要であるため、適切な物質系の探索を行った。具体的には、シンチレーター母体結晶として有望なLaSc3(BO3)4 (LSB)焼結体とランタノイドイオンを含む蓄光性長残光物質について基礎実験を行った。LSBについては、X 線励起下における熱ルミネッセンス観測ができたが、再結合発光する前の電子、正孔に由来するESR信号は得られなかった。蓄光性長残光物質のCaAl2O4:Eu,Nd及びSrAl2O4:Eu,Dyについて予備実験を行った結果、f電子に由来するCW-ESR信号は観測されたが、電子スピンエコー観測はできなかった。おそらく、位相緩和時間T2が短すぎることが原因と考えられる。一方で、再結合発光系ではないが電荷移動型分子ZnP-Si1-C60において、パルス光励起下で三重項励起状態のスピンエコー観測に成功し、励起状態での電子スピンエコー観測の端緒につくことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
実験のための装置準備と、光励起状態での電子スピンエコー観測方法を確立させるための準備実験については、概ね順調に進んでいる。しかし、本研究方法に合致する再結合発光する物質系の選定がまだできていない点や、年度末に装置の一部に不具合が発生し、一時実験をストップせざるを得なかった点が、「やや遅れている」という自己評価の要因である。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 電荷移動型分子ZnP-Si1-C60において、パルス光励起下で三重項励起状態のスピンエコー観測に成功しているが、励起状態でのスピン間距離測定DEER法では、まだ有意な結果が得られていない。更に進め、電荷分離励起状態でのDEER法を実施し、電子スピン(Se)と正孔スピン(Sh)間の相互作用を観測する。(2) AgCl結晶について研究を進める。AgCl結晶では三重項自己束縛励起子からの発光が観測されるため再結合発光の系とは異なるが、励起状態研究のモデル物質として、更なる実験手法の確立のため実験を進める。(3) 蓄光性長残光物質についての先行研究の結果の調査から、本研究に適した材料としてEu,Ndイオンを添加したCaCO3(CAO)が有望であることがわかった。この材料を取り寄せて、研究を進める。(4) Ag、Tl イオンを不純物として含むアルカリハライドや1 次元有機無機ハイブリッド化合物である有機ハロゲン化鉛、あるいはSrTiO3結晶での測定の可能性を探索する
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次年度の研究費の使用計画 |
・年度末に装置に不具合が発生し、実験を一時中断せざるを得なくなり、実験に必要な消耗品液体ヘリウムの購入を見合わせたため、繰越金が発生した。・本研究では低温で光励起をする必要があり、光学窓付きのクライオスタットを使用している。現在、ラディエーションシールド窓が強力パルス光のために傷ついている状態で、断熱真空を保つために少々難がある。今以上に装置の状況が悪化したら、クライオスタットのラディエーションシールド窓の修理を実施する必要があるため、修理費を研究費に計上する。・本実験に適した試料を入手し、液体ヘリウムもしくは液体窒素を寒剤とする低温下で実験するために、研究費の多くを使う予定である。・研究結果を学会等で発表する。
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