研究課題/領域番号 |
23540369
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研究機関 | 和歌山大学 |
研究代表者 |
秋元 郁子 和歌山大学, システム工学部, 准教授 (00314055)
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キーワード | 再結合発光 / 光励起状態 / パルスESR法 |
研究概要 |
本研究では、電子や正孔がもつスピン自由度に着目し、パルス光励起に引き続くパルス電子スピン共鳴(ESR)法とパルス電子‐電子二重共鳴(ELDOR、DEER)法を用いて、過渡的状態にある電子と正孔の空間分布配置をマッピングし、時間のべき乗で減衰する再結合発光の再結合確率分布を実験的に検証することを目的とする。すなわち、低温において光パルスで生成した数マイクロ秒から数ミリ秒持続するESRアクティブな電子励起状態をパルスESR法で時間分解的に測定する必要がある。 H25年度は、H24年度に選定したAlドープしたアナターゼ酸化チタンを用い、紫外線照射によるESR信号の発現条件や既報の結晶方位依存性を確認するところから実験をスタートさせた。液体窒素温度(90K)では、Ti4+と置き換わったAl3+(I=5/2, N.A.=100%)に捕えられた正孔のみが観測されるが、液体ヘリウム冷却温度(20K)ではこれに加えて、酸素欠陥によりTi4+に捕えられた電子による信号が観測されることを確認した。20K程度の低温下では、磁場の印加方位を選ぶことで、トラップされた電子と正孔の相関をマイクロ波のpump & probe測定により観測できる実験条件となることを確かめた。 20 Kで電子の信号に注目してエコー信号を観測し基本物理量としてのスピン緩和時間を求めたところ、磁場方向に対する結晶方位に依存する奇妙な現象を得た。これは結晶方位によって周辺核スピンとの相互作用強度が異なり、不均一性に差が生じていることの現れと考えられる。この知見は、結晶方位を定めて実験を進める上で重要なものである。また、紫外線照射により生成したトラップスピンは、赤色光により減少するため、定常的な紫外線照射下で赤色パルスを照射することで、スピン系に変調を与えられることを確かめた。 以上の内容を、電子スピンサイエンス学会年会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究は、結晶内での電子・正孔の再結合過程をスピン共鳴により観測しようとするもので、電子・正孔がトラップに捕獲された状態で観測するため、液体ヘリウムを寒剤とした低温での観測が不可欠である。H25年度の実験では、AlドープしたTiO2結晶で実験を開始し、次に実験を展開するための重要な知見を得た。しかし、世界的なヘリウムの需給バランスの不均衡により、液体へリウムの入手が困難な時期が続き、液体ヘリウムを用いた実験の機会が限られ、まだ予備実験の段階で、本来やるべき段階に到達していない。H25年度末には、2回目の寒剤をようやく手に入れたが、今度は測定装置のトラブルが発生し、実験ができなくなった。この状況を鑑み、研究期間の延長を申請した。したがって、「遅れている」という自己評価である。
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今後の研究の推進方策 |
測定装置の不具合については、業者による修繕によりH26年度初頭に解消する予定である。H26年度は、本研究の申請時よりもかなり高価ではあるが液体ヘリウムの購入は可能であるため、本実験を進める。 H25年度に分かった知見に基づき、本来H25年度に行う予定であった、Alドープしたアナターゼ酸化チタン結晶でのトラップされた電子、正孔について、パルスマイクロ波によるスピンのpump & probe測定法であるELDOR実験を引き続き進める。H25年度の研究により、紫外光パルス励起によるトラップ生成では、すぐに光励起過程が飽和してしまうことが分かった。そこで、定常紫外線で飽和させた状態のスピン系を、トラップしたスピンを解消するための赤色光パルスで変調することに方法を変更し、その状況下で電子、正孔間のスピン相関を調べる実験を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
H25年度内に液体ヘリウムの購入ができなかったことと、H25年度後半に装置トラブルが発生して予定していた実験できなかったことを受け、年度途中で研究期間の延長を申請することを決め使用を差し控えたため、次年度使用額が生じた。 研究期間の延長が認められたので、前年度ストップせざるを得なかった実験を進めるために使用する。主に、研究課題の申請時に比べ2倍以上の価格になった液体ヘリウムを購入に当てる。 また、研究結果を学会等で発表するための旅費としても使用する。
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