本研究は、電子や正孔がもつスピン自由度に着目し、先端的スピン計測法を用いて電子と正孔の空間分布配置をマッピングすることで、時間のべき乗で減衰する再結合発光の再結合確率分布を実験的に検証することを目的とする。 前年度までに選定した対象のAlドープしたアナターゼ型酸化チタンでは、紫外線照射で生成しトラップされた電子と正孔のスピンは、磁場に対する結晶方位を選ぶと、マイクロ波によるポンプ・プローブ法で両者の距離を求められるDEER測定のための条件を満たす。しかし、観測が可能な低温ではこのトラップスピンの熱脱離が遅く測定周期の間に初期状態に戻らないため、時間分解的DEER法は困難であることが分かった。よって、H26年度は定常的に生成したスピン種のEcho信号測定とDEER測定を実施し、主に以下の2点の成果を得た。 (1)紫外線で定常的に生成したスピン系に赤色パルス光を照射し、時間分解Echo測定によりスピン系を調べた。その結果、レーザー照射に対する遅延時間に対してEcho信号が現れる中心磁場がわずかながら振動することを発見した。これは、スピンパケットの歳差運動中に一部のスピン種が解放されるタイミングに応じて、スピン集団の不均一分布が変調されている現象を捉えていると解釈でき、トラップされたスピンをパルス光で制御できる可能性を示す。その内容を、スピンサイエンスの合同国際会議で発表した。 (2)定常的に発生させたトラップ電子と正孔のスピン相互作用をDEER法で調べた。その結果、両者のスピン相互作用に由来する信号変調を見いだした。初歩的な解析の結果、2~4nm程度に離れた電子と正孔がダイポール相互作用していることを実験的に捉えることに成功した。このことは、再結合発光する前は2~4nm程度に離れてトラップされていることを示している。今後、解析を進め学術論文で報告する予定である。
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