研究課題
本研究では,逆光電子分光実験装置の性能を向上させ,新奇材料の微細電子構造を解析することを目標としている。現状の装置のエネルギー分解能を支配している主要な部分は電子銃のエネルギー分解能にあり,この性能を向上させることが最初に取り組むべき内容となる。そこで,電子線源の基本的な実験から着手した。 エネルギー分解能の高い電子源を得るために,現状の調査を行った。低仕事関数型電子源,電界効果型電子源などが実用化されており,いくつかの市販のカソードについて検討したが性能を満たすものは得られなかった。一方,電子源として取扱は難しいものの原理的にエネルギー分解能が得られるとされている光励起型のカソードを電子源とする逆光電子分光装置の高度化に取り組んだ。 ここでの光カソードとはGaAs基板表面にCsを蒸着しNEA表面にしたカソードである。加速器科学分野で研究が進んでおり,広島大学にはKEKより赴任した栗木教授の研究室が加速器用GaAsカソードの研究に取り組んでいる。今年度は具体的な実験条件等についての情報提供を頂いて研究に必要な環境整備に取り組んだ。 本年度の科研費では,光励起のためのHeNeレーザーを新規に導入し,GaAs NEA表面を形成する際に必要となる真空環境の整備,希薄酸素導入系の整備を行った。GaAs NEA表面の創製には,極めて高い真空度が要求され,既存の試料準備装置の性能を高めこれで対応しようとした。既存の超高真空実験装置には,GaAs基板を導入するロードロック機構,基板の位置調整を行うマニピュレータ,試料表面の原子配列を観測する低速電子線回折装置が装備されている。初年度では,非蒸発ゲッターポンプを用いて超高真空から極高真空にレベルアップする準備を概ね完了した。
3: やや遅れている
GaAsNEA表面を作成し,そこからの電子線を取り出して逆光電子分光測定を行うために,一連の整備を進めてきた。GaAsNEA表面が極高真空を要するデリケートな表面であることから,当初計画では電子線を取り出す段階にあるべきところであるが,NEA表面を作成する段階に留まっているのが現状である。 真空装置の真空度を高めるためには,高温で装置全体をベークしてガスを徹底的に排除する必要があり,この作業にも多くの時間を要している。
真空装置の真空水準はその進展は遅れているものの,高い水準になりつつある。電子線取り出しの実験に向けて進めることができる状況にあり,今年度の計画実施を早めることで,概ね計画通りの進展を見込んでいる。 次年度は,具体的な電子線取り出し実験を予定しており,その際,学術的に未開拓な部分になっているGaAsNEA表面におけるCs原子の吸着構造について低速電子線回折装置を用いて詳細なデータをとる計画である。 逆光電子分光装置としてのエネルギー分解能を検証するために,簡易光検出器を作成し,予備実験を行う。その後既存の逆光電子分光装置に電子源を導入して本格的な実験を予定している。
次年度は,電子線取り出しに必要な電子部品,電子線をターゲットに照射した際に発生する逆光電子放出の光を検出する光電子像倍管等を準備し逆光電子分光実験スペクトルの取得を第一の目標とする。次に,高い分解能を達成するために,GaAs光かソードを冷却し,電子線のエネルギー分布を測定する実験を行う。これについては,放射光科学研究センターで使用している電子線エネルギー分析器を使用する計画であり,2012年秋以降に分析器を借り,実験を遂行する予定である。その際,GaAs光かソードを装置に導入するための試料ホルダーなどの部品が必要になる見込みである。 レーザーをカソードに集光するためのレンズや,真空容器に光を導入するための窓など真空部品や光学部品も若干必要になる。
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http://www.hsrc.hiroshima-u.ac.jp/publications12.htm