研究課題/領域番号 |
23540373
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
西谷 龍介 九州工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50167566)
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キーワード | プラズモン / 局所光電子励起 / 光励起トンネル電流 / ナノキャビティ / プラズモン増強 / トンネル発光 / STM / トンネル顕微鏡 |
研究概要 |
トンネル顕微鏡(STM)において基板金属とSTM探針の間のトンネルギャップをナノキャビティとして用い、ここにおける貴金属表面上での有機分子と種々の電磁場(プラズモン近接場、紫外レーザー光)との相互作用による、STMトンネル発光(STML)、光励起電子電流(PE)(内部光電子、外部光電子)の測定を目指して研究を進めている。本年度は、STM探針先端と貴金属表面間の微小空間で起こる光励起による光励起電子電流を、STM探針に流れこむ電流として検出する実験を行った。 これに用いる光源としては紫外パルスレーザーを用いた。このレーザービームの光軸調整を容易にするために、HeNeレーザーと紫外パルスレーザーの光軸を同じにするような光学系を作成して、励起光源として用いた。 このパルスレーザーをSTM探針先端に照射しながら、STM探針に流れる電流をSTM探針-試料間距離の関数として測定した。この測定をSTM像測定と同時に行い、電流対探針-試料間距離依存測定をSTMスキャン領域中32x32点で測定した。さらに、この光励起測定において、STM-試料間に印加するバイアス電圧の極性を変えて、励起電流の距離変化の違いを測定した。 これらの測定により、STM探針で検出した励起電流の探針試料距離依存性において、探針試料間距離が1nm付近でのトンネル電流と考えられる変化と距離が1nm-4nm付近でのトンネル電流と異なる変化を示す励起電流を検出した。また、試料バイアス電圧の極性をかえることにより、電流の距離依存性の変化も検出された。このような結果より。1)トンネル電流の場合、バイアス極性には大きく依存しないと考えられるが、極性に依存したこと、また2)トンネル電流が検出される距離を超えた探針試料間距離で電流が検出されたことより、本実験において内部および外部光電子励起による電流が検出できたと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究においては、(1) STM発光とフォトルミネッセンスの同時測定、(2)STM発光と光励起電流の同時測定、(3)光励起電子トンネル過程の測定、(4)光電子トンネリングの偏光依存測定による軌道対称性空間分布の解析を主要な目的としているが、本年度は主に(2)と(3)に関連する光励起電子による内部および外部光電子励起の研究を中心に行った。これにより、光電子励起の局所領域測定という新規な実験ができるようになり、主要目的の遂行に十分な前進があった。しかし、この測定のための励起光源装置の準備およびSTM探針先端に紫外パルスレーザーを照射することに少なからず時間を要した。これにより、これまでに実験実績のない光励起実験と距離依存性の測定の実現が遅れた。また課題(1)、(2)のSTM発光およびフォトルミネッセンスの測定は、長い研究実績があるが、パルスレーザー励起とディジタルディレイ・パルスジェネレータを用いて光励起と光学測定の時間同期した測定を行うための光測定系(CCD)のシステム改良が遅れたために、(1)、(2)の研究が残された。
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今後の研究の推進方策 |
(1)光励起電子トンネル電流の測定:H24年度に光励起電子のSTM探針による内部光電子および外部光電子の検出について実験を行い、これらの局所検出の可能性を示したので、さらにその電流の詳細(光励起局所電流の探針-試料間距離依存性、バイアス依存性)を明らかにする。 (2)有機分子吸着表面での光励起光電子電流の検出:これまでSTMトンネル発光測定で実績のある各種のポルフィリン分子などの有機分子薄膜において同様の測定を行い、非占有有機分子電子状態を経由した光励起内部光電子トンネリングの測定を行う。 (3)光励起内部および外部光電子電流測定でのスペクトル測定:探針-試料間バイアス依存性を測定し、その微分より光電子電流のスペクトルの測定を実現する。 (4)光電子トンネリングの偏光依存測定による軌道対称性空間分布の解析:内部光電子電流において、光励起光源の偏光に対する依存性を測定し、吸着分子の状態の対称性に関する知見を得ることを試みる。 (5)STM発光と光励起電流の同時測定:局所光励起とSTM発光の同時測定を行い、STM探針と基板の間のナノ空間におけるフォトン数(電磁場)がSTMトンネル発光効率に与える効果、すなわちトンネル発光および光励起におけるキャビティ効果による光電子相互作用の増大効果を測定する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度の海外出張経費は、昨年度経費を用いたので、次年度使用経費として275338円が当てられることになった。これは、H25年度国内学会参加2回および物品費に使用する。また平成25年度の研究経費90万円は、主にSTM実験装置改良のための物品費、およびその他消耗品(真空部品、光学部品)、さらに研究発表のための出版費に支出する。
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