研究課題/領域番号 |
23540376
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
大槻 東巳 上智大学, 理工学部, 教授 (50201976)
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キーワード | トポロジカル絶縁体 / Dirac電子 / Dirac半金属 / Anderson転移 |
研究概要 |
トポロジカル絶縁体は周期的な系で提案された新しい物質系である。一方,あらゆる物質は不純物や格子欠陥などのランダムネスを含み,周期性が成り立っていない。本研究は周期性が成り立っていないランダムネスを含んだトポロジカル絶縁体の理論を構築する。今年度は3次元トポロジカル絶縁体に対するランダムネスの効果について研究を進めた。はじめに,ランダムネスがある場合の相図を決定した。それによりランダムなトポロジカル絶縁体における通常絶縁相,強いトポロジカル絶縁相,弱いトポロジカル絶縁相,金属相をギャップパラメータとランダムネスのパラメーター空間で決定した。相図は転送行列方によるコンダクタンスの振る舞いより決定した。この際,異なるトポロジカル絶縁相間の相境界上ではランダムネスの効果がirrelevantになり,コンダクタンスの値が不変であることを発見した。これは相境界で系がDirac半金属になっていることを意味する。この新奇な振る舞いに着目し,この相境界上での状態密度に対するスケーリング理論を構築した。はじめに状態密度をkernel polynomial 法で計算し,これが1変数スケーリングに従うことを実証した。これをもとに,長さの発散の臨界指数と動的臨界指数を評価した。これらはAnderson転移と異なり,この臨界現象が新しい固定点で記述されることを示している。以上より,拡散係数,電気伝導度,状態密度,Dirac電子の速度の臨界指数が示すスケーリング関係式を導出した。こうして長さの発散の臨界指数と動的臨界指数を使って様々な物理量の臨界的振る舞いを予言した 。こうした純粋に理論的な研究の傍ら,京都大学,大阪大学,中国科学院の実験グループのデータ解析を行い,トポロジカル絶縁体におけるコンダクタンスの揺らぎが通常の普遍的コンダクタンスの揺らぎの理論で理解できることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度発見したランダムネスがある場合のDirac半金属のスケーリング則は,研究申請当初は予期していなかった新しい理論であるため。
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今後の研究の推進方策 |
トポロジカル絶縁体は周期的な系で提案された新しい物質系である。一方,あらゆる物質は不純物や格子欠陥などのランダムネスを含み,周期性が成り立っていない。本研究は周期性が成り立っていないランダムネスを含んだトポロジカル絶縁体の理論を構築する。今年度はランダムネスを含んだトポロジカル絶縁体の相境界に現れるDirac半金属状態のスケーリング理論を構築できた。今後はこのスケーリング理論を拡張する。
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次年度の研究費の使用計画 |
当該年度の研究ではスケーリング理論を構築し,効果的に計算を行える発見をした。計算機を増強する必要が生じなかった。また,海外での研究打ち合わせを私費でまかなう,国際会議の宿泊費は招待講演のため主催者が負担してくれたなどで旅費の節約が出来た。 当該年度に発見したスケーリング理論をさらに拡張する。理論を実証するため,大規模数値計算が必要となるので計算機を増強する。また,成果を南米で開催される低温物理学国際会議LT27で発表する。
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