25年度は主に次の研究を行い、強誘電体物理の新しい研究分野の開拓を行った。 本質的に非極性物質である強弾性体チタン酸カルシウム(CaTiO3、以下CTOと略記)について、そのドメイン境界が極性をもつことを、試料が発生する光第2高調波を用いて観察するSHG顕微鏡を用いて明らかにした。この数年来、強誘電体を含むマルチフェロイック物質研究は大きく変化しつつある。マルチフェロイックはエネルギー的に等価であるが方位の異なるドメイン(ツイン、あるいはヴァリアントと呼ばれることもある)の存在によって特徴付けられるが、そのドメイン境界に置いてバルクには見られない特異で巨大な物性が発現されることがわかってきた。この分野はドメイン境界科学として新しい地平を開きつつある。我々のCTOの研究はまさにこの方向にあり、さらにこの分野を発展させるために新しい貢献をしたと考えている。それは(1)共焦点型SHG顕微鏡の特徴を生かして、電子顕微鏡やプローブ顕微鏡では不可能な試料の内部観察を非破壊で行った事、(2)その結果、CTOの複雑なドメイン構造(21種類あり)に特徴的な、結晶学的に自明なドメイン境界(9種類)と非自明な境界(12種類)のいずれも極性をもつことを初めて明らかにした。(3)さらにそれぞれについてSHGの異方性を数ミクロンの領域に区切ってマッピングし、それを解析する事によりドメイン境界の対称性を決定した、ことである。この結果はPhys. Rev. B誌に印刷中である。
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