研究課題/領域番号 |
23540383
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
平野 馨一 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 准教授 (40218798)
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研究分担者 |
杉山 弘 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 助教 (80222058)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | X線 / 偏光 / 検光子 / 多波回折 |
研究概要 |
初年度は当初の計画に則って主に本研究のための基盤整備を行った。 第一に、できるだけコンパクトなX線偏光解析装置の設計と製作を行った。設計に当たっては既存の小型4軸回折計だけでなくHuber社の大型4軸回折計等にも組み込むことができるよう配慮しつつ、面内回転、並進移動、あおり角の調整等を十分な精度で行えるようにした。また、作成した装置の動作確認を行い、設計通りの性能が得られていることを確認した。 第二に、X線検光子に使用する結晶の評価を行った。検光子には完全性の高い結晶が必要である。現在、最も入手しやすい完全結晶はFZ 法で作成されたSi 結晶であるが、ダイヤモンド結晶も有力な候補である。そこで、まずは高圧合成のIIb 型高純度人工ダイヤモンド結晶について、平面波X線トポグラフィーで結晶性の評価を行った。さらにCVD法で作成されたダイヤモンド結晶についても同様の評価を行い、作成条件によっては高圧合成のIIb 型高純度人工ダイヤモンド結晶と同程度の完全性の結晶が得られることを確認した。 第三に、X線の動力学的回折理論の計算プログラムをプログラミング言語C++を用いて作成し、X線多波回折の計算に必要な種々のライブラリー(原子散乱因子、結晶構造因子、反射率、透過率、位相等を計算するライブラリー)の整備を行った。また、作成したライブラリーが正常に動作するかどうかの検証を行った。 第四に、学会などに出席して他の研究者と本研究に関連する情報の交換を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年3月11日に発生した東日本大震災により、課題代表者が所属する茨城県つくば市の高エネルギー加速器研究機構・放射光科学研究施設フォトン・ファクトリー(略称PF)も被害を受けた。そのため、昨年4月から7月までの約4ヶ月間、その復旧作業に追われた。しかし、その努力の甲斐あって、PFは震災前の状態にほぼ復旧し、秋からはほぼ正常に通常運転が行われた。 このような想定外の出来事により、当初の研究計画に全体でおよそ30%程度の遅れが生じた。各項目ごとに具体的な進捗状況を記すと、第一にX線偏光解析装置の設計と製作についてはこれを最優先とし、当初の予定をほぼ達成することができた。第二に、X線検光子に使用する結晶の評価については、高圧合成やCVD法で作成したダイヤモンド結晶の評価は予定通り行うことができたが、GaAs結晶の評価は行えなかった。第三に、X線多波回折用の計算プログラムの作成であるが、この優先度を最低としたため、達成度は約30%程度にとどまった。計算に必要な基本的なサブルーチン群は作成したものの、肝心の多波回折計算プログラムまでは手が回らなかった。 震災の影響で残念ながら当初の予定の約7割程度しか達成することができなかったが、逆の見方をすると、震災にも関わらず7割も達成できたのはまさに不幸中の幸いであったとも言える。
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今後の研究の推進方策 |
まずは東日本大震災による遅れを取り戻すために、GaAs結晶の評価をX線トポグラフィーとゴニオメトリーにより行う。次に、X線多波回折の計算プログラムの開発と検証を行う。特に重要な点は、任意の波数に対応可能で高精度な理論を確立することである。そのために、R. Colella 教授によって開発された世界的に有名なプログラムNBEAM の改良と拡張を行う。NBEAM は逐次処理型のプログラムであり、Fortran 言語で書かれているが、本研究ではこのプログラムをC++言語に移植し、OpenMP やCUDA 等を導入して並列処理化を図ることで計算速度の向上も図る。 次に、当初の予定に従って、初年度に作成した装置と放射光X線を用いて検光子の性能評価実験等を行う。実験はPF のビームラインBL-14B で行う。実験で得られた結果を計算結果と比較することにより、基礎理論の妥当性や精度などについて検証する。また、測定方法を改良して測定時間の短縮化を図る。さらに、データ解析プログラムについても見直しを行い、解析精度の向上を目指す。 また、検光子の応用の準備も進める。X線検光子の応用先は、X線磁気散乱による磁性研究、ATS 散乱による電子軌道の異方性研究など多岐にわたる。特に、本研究で開発するX線検光子の大きな特長は任意の波長で利用可能な点であり、これにより試料の中に含まれる任意の元素の吸収端近傍で偏光測定を行うことが可能となる。この新たな可能性を切り拓くには、偏光検出効率が最大となるよう検光子の条件(結晶の種類、主反射と遠回り反射の反射面の種類、測定方法等)を最適化する必要がある。そこで、6keVから30keV のエネルギー範囲で最適な検光子の条件を探し出す。
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度、震災に伴うスケジュールの遅れにより、実験に使用する治具の設計や消耗品の購入等が間に合わず、約八十万円の未使用額が生じた。 次年度は前年度の未使用額と合わせて約二百万円使用する予定である。その主な内容は検光子に使用する結晶の購入(約20万円)、偏光解析装置の改造や治具の作成(約70万円)である。またフランスで7月に開催される国際会議SRI2012に参加する(2名分の旅費が約50万円)。その他、消耗品や論文出版などを行う。
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