研究概要 |
本研究の目的は,所属研究室で開発した世界的に最高輝度を持ったHe*(1s2s,トリプレット)準安定原子源にスピン偏極機能を付加し,電子分光測定に応用することにある.第一にスピン選別用の6極磁場レンズを設計製作することでスピン偏極し (例えば↑↑;M(S)= +1),かつ超高輝度な He*トリプレット原子源を開発する.そしてこの原子源を利用して,高エネルギー分解能な「スピン偏極準安定原子電子分光」として機能させる.第二に,無機,有機にとらわれず,幅広い表面系にこの電子分光法を適用し,特にフェルミ準位近傍の価電子におけるスピン状態を調べる.表面系における磁性を探る一手段としてこの測定手法を確立し,新しい物性を見出すことが本研究の最終目標になる. 固体電子分光装置を用いてAu(111)基板上にアルカリ金属(K)をドープしたジベンゾペンタセン薄膜を作製し,そのフェルミ準位近傍における価電子状態を準安定原子電子分光と紫外光電子分光で調べた.Kドープによって有機金属錯体様の薄膜を形成し,有機分子のHOMO-LUMOギャップ内にフェルミ新しい価電子状態が出現することを見出した.第一原子計算では,このような錯体はドープ量によって金属的な電子構造期待されたが,実際はギャップが存在する.現時点では,この錯体はモット絶縁体的な電子構造をとると解釈でき,系全体で反強磁性的なスピン配置をとっていると考えられる.
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