研究課題/領域番号 |
23540389
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
菊池 彦光 福井大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50234191)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 量子スピン系 / スピンフラストレーション / 磁性体 |
研究概要 |
本研究は、スピンの並び方は一次元的であるが、スピン間相互作用のネットワークがある特定の構造を組むために生じるスピンフラストレーション効果のために、通常の一次元磁性体とは本質的に異なる磁性を示す新規磁性体を探索・合成し、磁化率、磁化、比熱、磁気共鳴法等の実験手法を用いてそれらの磁気的性質を総合的に解明する事を目的とする。 本年は、三角形が頂点共有して連結してできるデルタ鎖、ならびに三本の磁性鎖が鉄橋状に繋がってできる三本鎖磁性体と名付けたスピン系について研究を行った。 デルタ鎖については、適当なモデル化合物がないため、実験研究はこれまであまり進んでいなかった。モデル化合物を探索した結果、Cu2(AsO4)(OH) ・H2O(鉱物名;ユークロアイト)の結晶構造がまさにデルタ鎖となっていることを見いだした。ユークロアイトの天然鉱物単結晶を用いて、磁化率、比熱、強磁場磁化、核磁気共鳴を測定し、ユークロアイトが予想通り一次元磁性体とみなせること、更に理論的に予想されていたスピンギャップを有することを明らかにした。 三本鎖磁性体にかんする興味は、Cu3(SO4)(OH)4(アントラライト)の粉末試料において磁気秩序温度以下でも一部のスピンが通常の秩序を示さないアイドルスピン状態が観測されたという報告からはじまった。詳細かつ精密な実験を行うために、本年度はアントレライト単結晶試料を用いた核磁気共鳴ならびに比熱測定を行った。その結果、本化合物の磁気相図は非常に複雑で、粉末試料に対して提唱されたアイドルスピンモデルは必ずしも妥当とはいえない事を示唆する結果を得た。更に、アントレライトとほぼ同様の結晶構造を有するが、磁性は全く研究されていなかったCu3(MoO4)(OH)4(セニックサイト)の天然鉱物試料の磁化率、比熱、強磁場磁化を測定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、複雑なスピンネットワーク構造を有するスピンモデルに対応する新規な量子スピン磁性体(ダイヤモンド鎖、デルタ鎖、三本鎖磁性体)の現実物質を探索合成し、新しい磁性を見いだすことにある。申請書に記載した研究計画中、デルタ鎖についてはモデル化合物ユークロアイトの詳細な磁性を明らかにすることについてはほぼ達成できた。三本鎖磁性体についても当初の予定どおり、アントラライト単結晶を用いた詳細な磁性研究ならびに新規磁性体セニックサイトの基本的磁性を明らかにすることができた。また、ダイヤモンド鎖については当初の予定どおり、新規化合物を合成することはできたが、低温実験に不可欠の寒剤である液体ヘリウムの学内価格(福井大学の寒剤供給部門が決定する)が非常に高騰したため実験が事実上不可能となり残念ながら磁性研究までには至らなかった。 これらの状況から、完全に予定どおりではなかったもののおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、フラストレートした一次元磁性体(ダイヤモンド鎖、デルタ鎖、三本鎖磁性体)の試料合成・探索、磁化率測定、強磁場磁化測定を行う。 ダイヤモンド鎖については、23年度に新規化合物としてCu(A)(H2O) (A=HOOC-(CH2)4-COOH;アジピン酸)を見いだし、合成することもできた。しかし、福井大学学内での寒剤代高騰のため低温での磁性実験が出来なかった。今年度はCu(A)(H2O)の磁化率、比熱、強磁場磁化を測定していく。今年度以降も寒剤代価格が下がらなければ国内他研究機関におもむき、測定を行うことも考慮する。 デルタ鎖については、ユークロアイトという新モデル化合物の磁化率測定などによりスピンギャップの存在などの新規現象を見いだした。今年度以降は更に磁気共鳴ならびに中性子回折実験により詳細な磁気的性質を調べていく。また、 Rb2(VO)2Si8O19などの新規モデル化合物合成も試みる。 三本鎖磁性体については、アントレライト単結晶に対する核磁気共鳴測定により、フランスの研究者が主張していたアイドルスピン状態とは異なる秩序状態が実現していること、温度‐磁場に対する磁気相図が当初の予想よりも遙かに複雑であることを見いだした。今年度以降は、アントレライトにおいて多数現れる磁気相の磁気状態を明らかにすることをめざす。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究においては極低温での実験が必要不可欠である。極低温環境での実験には液体ヘリウムが必要である。福井大学においては工学部附属超低温実験施設寒剤供給部門が寒剤を供給する責任部署となっている。本研究計画作成時に比較して、学内の液体ヘリウム価格が高騰しており、相当量の研究費を寒剤代に費やす必要が生じている。それゆえ、研究費の60%以上を寒剤代に使用する予定である。それ以外は当初の計画にほぼしたがった用途(国際会議旅費、国内学会、研究会旅費、試料代、電子部品費用)での使用を計画している。
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