研究課題/領域番号 |
23540389
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
菊池 彦光 福井大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50234191)
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キーワード | 量子スピン系 / スピンフラストレーション / 巨大磁気抵抗効果 |
研究概要 |
本研究は、スピンの並び方は一次元的であるが、スピン間相互作用のネットワークがある特定の構造を組むために生じるスピンフラストレーション効果のために、通常の一次元磁性体とは本質的に異なる磁性を示す新規磁性体を探索・合成し、磁化率、磁化、比熱、磁 気共鳴法等の実験手法を用いてそれらの磁気的性質を総合的に解明する事を目的とする。初年度は、三角形が頂点共有して連結してできるデルタ鎖、ならびに三本の磁性鎖が鉄橋状に繋がってできる三本鎖磁性体と名付けた スピン系について研究を行い、Cu2(AsO4)(OH) ・H2O(鉱物名;ユークロアイト)がルタ鎖のモデル化合物とみなせること、三本鎖磁性体Cu3(SO4)(OH)4(アントラライト)の単結晶を用いた実験による磁性解明を行った。2年目である昨年度は、Cu3(A)2(H2O) (A=HOOC-(CH2)4-COOH;アジピン酸)を合成し、磁化測定を行って、同化合物がダイヤモンド鎖の新規化合物である事を示す結果を得た。ダイヤモンド鎖の磁化過程においては理論的には1/3磁化プラトーとよばれる現象が見いだされる事が期待されるが、本化合物の磁化過程にはそのようなプラトーはみられず、今後の研究が必要である。スピンが複雑な二次元ネットワーク構造を組むCu5(PO4)2(OH)4(鉱物名;擬孔雀石)の磁性が、一次元鎖とスピン二量体との和で定性的に説明できる事を見いだしたのも成果の一つである。更に、NIMS(物材機構)との共同研究により電気伝導性を有する一次元フラストレート化合物であるNaCr2O4が巨大磁気抵抗効果を示す事を見いだした。この結果は新聞(福井新聞、福井県民新聞、読売新聞)にも掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、複雑なスピンネットワーク構造を有するスピンモデルに対応する新規な量子スピン磁性体(ダイヤモンド鎖、デルタ鎖、三本鎖磁性体)の現実物質を探索合成し、新しい磁性を見いだすことにある。申請書に記載した研究計画中、初年度においてすでに、デルタ鎖、三本鎖磁性体に関する研究を行って一定の成果を得ている。昨年度においては、ダイヤモンド鎖についても新規化合物Cu3(A)2(H2O)を作成してその磁性を明らかにしつつある。昨年度は当初の研究計画から更に発展して、電気伝導性を有する一次元フラストレート化合物であるNaCr2O4の磁気・電気物性をNIMSとの共同研究によって巨大磁気抵抗効果を示す事を見いだすなど、当初の想定以上の成果をあげている。ただし、低温実験に不可欠の寒剤である液体ヘリウムが世界的に不足している事から、本研究において不可欠な低温実験が十分には行えてはいない。 これらの状況から、完全に予定どおりではなかったもののおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究計画最終年度である本年においては、複雑なスピンネットワーク構造を有する一次元スピンモデル化合物に関するこれまで行ってきた実験結果をまとめていく。論文投稿、国際会議発表を行っていく。 一次元的構造を示す磁性体NaCr2O4の巨大磁気抵抗効果が、スピンフラストレーションを原因とする非コリニアなスピン構造に起因するという結果が昨年度に得られた。この発見をヒントとして、電気伝導性を有するスピンフラストレート磁性体の探索・物性研究を、本研究の更なる発展的な研究のために、行っていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究においては極低温での実験が必要不可欠であり、極低温環境での実験には液体ヘリウムが必要である。ところが、新聞等でも報道されているように世界的にヘリウムが不足しており、低温実験を継続的に行う事が困難那状況が続いている。福井大学においては工学部附属超低温実験施設寒剤供給部門が寒剤を供給する責任部署となっている。関係教員・職員の努力にもかかわらず、ヘリウム供給が不可能かあるいは供給できても価格が高騰しており、相当量の研究費を寒剤代に費やす必要が生じている。研究費の60%以上を寒剤代に使用する予定である。それ以外は当初の計画にほぼしたがった用途(国際会議旅費、国内学会、研究会旅費、試料代、電子部品、計測装置等費用)での使用を計画している。
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