研究課題/領域番号 |
23540390
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
松本 正茂 静岡大学, 理学部, 教授 (20281058)
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研究分担者 |
古賀 幹人 静岡大学, 教育学部, 准教授 (40324321)
楠瀬 博明 愛媛大学, 理工学研究科, 准教授 (00292201)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | magnetic excitation / spin dimer / monomer / spin-wave theory / multiferroics |
研究概要 |
初年度においては、複合スピン系の例として、強く結合したスピンダイマーとモノマーの系について研究をおこなった。具体的には、Cu3Mo2O9 を典型的な物質として取り上げ、拡張されたスピン波理論を用いて磁気励起を調べた。その結果、磁気励起はダイマーとモノマーが強く結合してできた励起モードとして表現でき、中性子散乱の実験結果をうまく再現できることがわかった。さらに、実験ではまだ観測されていない励起モードが存在することも明らかになった。また、磁場を加えることによって、磁気励起には特徴的な分裂が起こることもわかった。実験によってそれらを観測することができれば、Cu3Mo2O9 が典型的なダイマー・モノマー系であることを示すことができるため、今後の実験的な研究の進展が期待されている。 Cu3Mo2O9 では、磁気秩序にともなって電気分極が発生することが、上智大学の実験グループによって報告されている。この原因については、Bulaevskii らが提案した機構に基づくのではないかと、実験グループによって指摘されている。拡張されたスピン波理論を用いて、この点についても調べた。その結果、ダイマー・モノマー系に磁場を加えた際に起こる特徴的な磁場誘起量子相転移にともなって、電気分極が大きく変化することがわかった。この点を実験で観測することができれば、Bulaevskii らの機構が実現されていることを、具体的な物質で初めて示すことができるため、我々の研究によって予測されている、磁場誘起量子相転移に関する今後の実験の進展が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スピンモノマー系が通常の磁性を引き起こすことは良く知られている。また、スピンダイマー系では磁気モーメントが消失し、磁場誘起の秩序が起きることが知られている。一方、この両者が強く結合した系の磁性について、磁気励起を含めた量子相転移の理論的な研究は、これまで詳しい報告がされていなかった。 我々は、初年度において、強く結合したダイマー・モノマー系の量子相転移と磁気励起を詳しく調べ、上記の点を明らかにした。これは計画書で予定されていた研究であり、それを順調に進めることができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、複合スピン系としてより複雑な、3つのスピンが強く結合してできた、スピントライマー系の研究を進める予定である。具体的には、九州大学・東京大学・東北大学の実験グループで協同研究がすすめられいる、(C5H11NO2)2・3CuCl2・2H2O という物質を典型物質として取り上げ、研究を行う。この物質では、磁化曲線の測定から、1/3 磁化プラトーが出現し、それによって低磁場秩序相と高磁場秩序相が分離していることが示唆されている。 これらの点について、量子相転移がどのように磁気励起と結びついているのか明らかにする。 トライマー系では、トライマーの内部自由度によって、多数の励起モードが存在することが予想される。この点については、拡張されたスピン波理論を用いて解析する。また、注目する励起モードに着目し、簡略化した理論として疑スピンを導入し、有効模型を用いて磁気励起を解析的に表現することも目指す。これによって、トライマー系の磁気励起の特徴を、分かりやすく理解することができる。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度では、初年度に購入予定であった数値計算用の計算機を購入する予定である。当初購入予定であった計算機のモデルが更新されることが示唆されていたためであり、更新された計算機を購入することによって、今後の研究をより円滑に進めることができると判断したためである。次年度には、スピントライマー系を調べるため、より高速な計算が必要となるので、その点においても妥当だと判断される。 また、国内の研究者とのミーティングを通じて、今後の研究に必要な情報交換を行う予定である。具体的には、トライマー系の実験を行っている九州大学・東北大学のグループとの研究交流を予定している。また、国内の学会・研究会や、国際会議などに参加するための旅費を計画している。
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