研究課題/領域番号 |
23540390
|
研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
松本 正茂 静岡大学, 理学部, 教授 (20281058)
|
研究分担者 |
古賀 幹人 静岡大学, 教育学部, 准教授 (40324321)
楠瀬 博明 愛媛大学, 理工学研究科, 准教授 (00292201)
|
キーワード | 量子スピン系 / 複合スピン系 / スピン三量体 / 拡張スピン波理論 / 中性子散乱 / マルチフェロイクス / 三重量子ドット / スピン電荷制御 |
研究概要 |
平成24年度の実績として、以下の内容の論文を3編出版した。 (1)圧力下におけるTlCuCl3のラマン散乱の測定結果を解析し、スピン二量体系の圧力誘起量子相転移にともなう縦揺らぎスピン波モードが、ラマン散乱によって観測されていることを検証した。また、ラマン散乱強度のピーク幅から、圧力の上昇によって、縦揺らぎスピン波モードの寿命が短くなること(ピーク幅が増加すること)を見出した。この結果は、縦モードの励起が横モードの二つの励起に崩壊プロセスによって理解できることを示した。 (2)スピン三量体系の量子相転移を明らかにするため、具体的な典型物質として、実験が進んでいる(C5H11NO2)2・3CuCl2・2H2Oを取り上げ研究をおこなった。その結果、非弾性中性子散乱について、スピン三量体の形状因子を導入することで、実験結果を定量的に解析できる理論を構築した。また、磁気励起の各モードが、三量体内部のどのようなスピン揺らぎに対応しているかについても解明した。さらに、磁場誘起量子相転移は、三量体内部の磁気構造をともなった、三量体複合スピンを反映したボーズ粒子による、ボーズ・アインシュタイン凝縮として理解できることを示した。 (3)平成23年度におこなった、スピン二量体・一量体系のマルチフェロイクスの研究を発展させ、スピンが誘発する電気分極の効果を、三重量子ドット系において理論的に調べた。その結果、三重量子ドットにリード線を近づけた場合、近藤効果によって三重量子ドット内に電荷再配置がおこり、電気分極が誘発されることを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度には、(1)スピン二量体系の圧力誘起量子相転移における光応答と、(2)スピン三量体系の量子相転移と磁気励起について、実験結果を定量的に解析できる理論を構築する研究計画であった。 (1)の計画については、連携研究者の上智大学の実験グループと協力して、TlCuCl3の圧力誘起量子相転移にともなう縦モードの磁気励起が、圧力下のラマン散乱によって観測されていることを検証し、論文として報告した。 (2)の計画については、スピン三量体の典型物質として(C5H11NO2)2・3CuCl2・2H2Oをとりあげ、量子相転移と磁気励起について、計画どおり研究協力者の大学院生(修士課程)と共同で研究をおこない、その成果を論文として出版した。 さらに、平成23年度の研究を発展させて、当初の研究計画にない研究も推進した。具体的には、平成23年度におこなったスピン二量体・一量体の研究で用いた新規なマルチフェロイクスの機構を応用して、近藤効果が誘発する電気分極の研究を、三重量子ドットでおこなった。この研究は、マルチフェロイクスの新規な機構をナノテクノロジー分野へ応用した最初の研究として、日本物理学科欧文誌(JPSJ)の Editor's Choice に選出され、研究を応用することによって、スピン電荷制御の新技術の創製が期待されている。 このように、上記のような研究成果が得られているため、本研究はおおむね順調に進展していると判断される。
|
今後の研究の推進方策 |
平成25年度は研究の最終年度にあたる。これまでの成果を発展させ、量子スピン系における量子相転移を多極子の視点から解明し、研究目的を達成する。具体的には、マルチフェロイクス物質として注目されているBa2CoGe2O7に着目する。磁性を担うCoイオンがS=3/2をもち、双極子モーメントに加えて、スピンが四極子モーメントをもつ特徴がある。また、この物質ではCoのサイトには反転対称性が無いため、四極子と電気分極は区別できなくなり、両者は等価となる。このようなユニークな特徴をもつBa2CoGe2O7について、磁気励起の詳細を実験結果と比較することで、量子スピン系における多極子の役割を解明する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度は研究の最終年度であるため、これまでの研究成果を海外で発表する。平成24年度から平成25年度に繰り越す研究費は、主にその目的のために使用する計画である。具体的には、2014年3月に開催されるアメリカ物理学会に参加し、研究発表をおこなう予定である。
|