研究概要 |
正方晶三元化合物HoRh2Si2は成分分離逐次磁気転移を示す;すなわち,TN1=29.5 KおよびTN2=12 Kでそれぞれ磁気モーメントのc軸成分およびa-b面内成分が独立に秩序化する。したがって,中間温度領域(TN2<T<TN1)において部分成分磁気秩序相が現れる。これは,フラストレ-ションが引き起こす特異な現象であると考えられる。これまでに報告されているほとんどの成分分離磁気転移は幾何学的フラストレーションによるものであった。この正方晶HoRh2Si2ではこの起因として幾何学的フラストレーションを考えることは難しい。この振る舞いを理解するためには,これまでにない新しいメカニズムを見出す必要がある。そこで正方晶希土類化合物HoRh2Si2が示す“逐次成分分離磁気転移”およびこれに伴って現れる“部分成分磁気秩序相”の詳細および起因を明らかにすることを目的として,研究を行った。そのために純良単結晶を育成し,それを用いて,基礎的物性測定:磁化率,磁化,比熱,弾性定数および中性子回折,中性子磁気散漫散乱測定を行った。その結果,以下の成果を得た;中間温度領域の磁気転移点Tt=28 Kの存在およびこの転移が一次転移であることを確認した。多段階メタ磁性磁化過程の詳細および複雑なB-T磁気相図を得た。この系では強的四極子相互作用が重要な役割をしている。各相における磁気構造を決定した;III相(T<TN2): 波数ベクトルk=(0,0,1), Mはc軸から約30°傾いている,II相(TN2<T<Tt):k=(0,0,1), M//c, I相(Tt<T<TN1):k=(1/2,1/2,1/2),M//c。中性子磁気散漫散乱をTN2以上の温度で観測し,II相が部分成分秩序相であることを明らかにした。さらに,疑三元系化合物(Ho1-xYx)Rh2Si2および(Ho1-xGdx)Rh2Si2の単結晶育成を行い,この系における磁気相互作用および四極子相互作用の役割を明らかにするために研究を継続中である。
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