研究課題/領域番号 |
23540392
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
稲垣 祐次 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10335458)
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研究分担者 |
河江 達也 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (30253503)
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キーワード | 強磁場 / 断熱法比熱 / 極低温 |
研究概要 |
昨今、比熱測定と言えば、ほぼ全自動化された市販測定装置が用いられることが大半を占めるようになってきている。しかしながら、市販品の多くは温度計の磁場依存性を避ける為に緩和法を採用している点で、潜熱を伴う一次相転移の定量的な評価ができない弱点がある。 本研究では、原理的に磁場依存性を示さないクーロンブロッケード温度計に着目し、比熱測定として理想的な断熱法を採用することで、超強磁場領域まで高精度に測定可能な比熱測定装置・技術の開発を目指している。 クーロンブロッケード温度計とはトンネルジャンクションにおけるIV特性がクーロンブロッケード効果の為に温度依存性を示すことを利用した1次温度計であり、具体的には微分コンダクタンスの半値幅が温度にのみ依存し、その他の外部パラメータには依存しないことを利用する。そのクーロンブロッケード温度計を比熱測定で使用する際に問題となるのがサンプリングレートである。断熱法とはいえ、実際の測定環境で実現されるのは擬断熱条件であり、ヒートパルスで昇温後の試料部の温度は熱浴への緩和の為に時々刻々と変化していく。したがって悠長に微分コンダクタンスを測定している時間的余裕はなく、1点1秒程度のサンプリングレートが要求される。そこで我々は微分コンダクタンスカーブではなく、ゼロバイアスにおけるコンダクタンス値の温度依存性に着目し、ロックインアンプを用いた高速サンプリング化を実現した。既存の希釈冷凍機(最低温100mK)と8T超伝導マグネットを用いたテスト、自動測定化に向けたプログラミングも現時点で既に完了している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、クーロンブロッケード温度計を用いた比熱測定の心臓部は完成し、磁場中でのテストも実施済みである。初年度に問題となっていたノイズの問題に関しては、プリアンプを購入して対策することで比較的容易に改善された。大型マグネットを用いたテストが若干遅れている理由は、補助温度計が静電気により破壊されるトラブルが相次いだことが影響しており、最終年度に実施予定である。以上より、現時点で開発は順調に進んでいると言ってよいレベルにあると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度では、大型マグネット中での動作テストを行い、標準試料を用いた測定、更には物性研究への投入を行う。本研究の目標を達成する上で最も重要な部分の開発はすでに終えているので、強磁場下測定環境の整備等を遂行するのみである。 既存の大型マグネットでの動作確認後は、更なる高磁場環境での測定を目指して、国内外の強磁場施設を利用した開発も計画している。
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次年度の研究費の使用計画 |
上述したように、大型マグネットを設置しての動作テストが当初計画より遅れた為、「次年度使用額」は大型マグネット設置用の金属材料、真空関連部品や電子パーツ等の購入、金属加工費に使用予定である。 翌年度研究費については、動作テストには低温環境が必要な為、主に液体窒素や液体ヘリウムといった寒剤費用の調達や、成果公表用の旅費、投稿料、更には強磁場施設の視察、打ち合わせの為の旅費等に研究費を使用させていただく。
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