研究課題/領域番号 |
23540393
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
伊藤 昌和 鹿児島大学, 理工学研究科, 准教授 (40294524)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | スピングラス / 比熱 / 磁化 |
研究概要 |
23年度はスピングラス物質及びその関連物質の比熱、磁化測定を中心に研究を行なってきた。以下にその内容を具体的にまとめる。(1)スピネルFeCr2S4の高磁場物性。フェリ磁性体FeCr2S4は磁場中冷却(FC)と零磁場中冷却(ZFC)における磁化において、非可逆性が見られることから、リエントラントスピングラスを起こす可能性が指摘されていた物質である。また、低温で軌道秩序転移を示すことからも興味を持たれている。我々はこの物質の高地場磁化測定を行い、軌道秩序化相(<9K)において、磁場誘起磁気相転移を起こすことを発見した。この相転移は軌道秩序化相でのみ発現することから、その磁気構造は結晶構造と密接に関わっていると予想される。結果をまとめ、J. Magn. Magn. Mat 323 (2011) 3290に発表した。(2)セレン化物FeCr2Se4における磁化、比熱測定。反強磁性体FeCr2Se4は反強磁性転移温度(200 K)以下で、温度減少とともに磁化が増加することから、強磁性もしくはフェリ磁性転移の存在が指摘されていた。また、低温FC磁化とZFC磁化の間に差が見られることから低温スピングラス相の存在も指摘されていた。しかし我々はこの物質の比熱測定を行った結果、反強磁性転移以外の(スピングラスも含む)磁気相転移は確認できなかった。この結果をまとめ、低温物理学国際会議LT26(北京)で発表した。(3)スピングラスを示すスピネル化合物CuCrZrS4の磁化の時間依存性。CuCrZrS4のスピングラス相における磁化の時間依存性を測定し、この物質の磁化が時間の対数に比例することを見出した。更に磁気粘性係数の温度依存性を見積もり、これらの振る舞いが古典的な磁気余効モデルで理解できることを示した。結果をまとめ、Physica B 407 (2012) 1272に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の主たるテーマは、スピングラス物質の低温磁気比熱の温度依存性を調べることである。磁気比熱における詳細な議論を行うため、モデル物質の全比熱から格子比熱の寄与を正確に差し引かなければならない。そのため低温度域でスピングラス凍結を起こす物質をモデル物質とすることが望ましい。昨年度はモデル物質の探索に時間がかかったため、当初予定していたスピングラス凍結温度の磁場-温度相図の作成及び低温磁気比熱の温度依存性の検討は、あまりはかどらなかった。しかしながら、軌道秩序化転移を起こす磁気的フラストレーションの強いスピネルFeCr2S4の強磁場磁化測定から、この物質が軌道秩序化温度以下で磁場誘起磁気相転移を起こすことを発見したこと、スピングラスを示すと考えられていたFeCr2Se4の低温比熱測定を行い、この物質の低温磁気励起において新しい知見が得られたこと、またスピングラス物質であるCuCrZrS4のスピングラス相における磁化の時間依存性から磁気的粘性係数の温度依存性を求め、その定性的説明に成功したこと等、スピングラス系物質を理解する上で、ある程度の成果があったといえる。したがって研究全体としては概ね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画のように、スピングラス物質の比熱の磁場依存性を中心に研究を調べていく。具体的には、(1)スピンのz軸成分のスピン凍結温度であるAT凍結温度、及びxy軸成分の凍結温度であるGT凍結温度を持つスピングラスモデル物質の探索、(2)磁化測定によるAT,GT温度の磁場依存性(磁場-温度相図)を決定する。(3)AT、GT温度以下における低温磁気比熱の温度依存性を調べる。また磁場中比熱測定を行い、比熱の温度依存性が磁場強度とともにどのように変化していくか調べる。更に、(4)系内のフラストレーションをコントロールする目的で、サンプルに圧力を印加し、AT,GT温度の圧力依存性を調べる。本研究では物質に依存しないスピングラス系の普遍性について調べることを目的としているため、(1)においては、ホイスラー化合物、スピネル化合物をはじめ、様々な物質系でモデル物質の探索を行う。また採択者の研究グループには、磁場中比熱測定が可能な装置は設置されていない。したがって上記(3)の研究を実行するにあたっては、共同利用施設(東京大学物性研究所)の装置を使用させて頂く。
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次年度の研究費の使用計画 |
引き続き、スピングラス物質の探索、それを用いた低温比熱測定を行うため、研究費は(1)サンプル育成用試薬、(2)低温比熱測定クライオスタットの製作材料、(3)He3ガス循環用シールポンプ、の購入に使用する。
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