研究課題/領域番号 |
23540393
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
伊藤 昌和 鹿児島大学, 理工学研究科, 准教授 (40294524)
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キーワード | スピングラス / フラストレーション / ハーフメタル / ホイスラー / スピネル / 電気抵抗率 / 熱伝導率 / ゼーベック係数 |
研究概要 |
25年度はスピネル化合物CuCrTiS4およびホイスラー化合物Fe2VSiの物性を調べた。 ①スピングラス相を持つスピネル化合物CuCrTiS4の輸送特性 CuCrTiS4はその結晶構造に由来する幾何学フラストレーションを持ち、これまでにスピン凍結温度Tf= 8 Kのスピングラスをもつことが報告されている。この物質の輸送現象について詳細に調べた。電気抵抗は温度現象とともに大きく増大する絶縁体的な振る舞いを示すが、その温度依存性は活性化タイプではなく、バリアブルレンジホッピング伝導でよく記述できることが分かった。また熱伝導率は5<T<300K の温度領域で比較的小さく(300Kで約1W/mK)、ウムクラップ散乱によるピークを示す温度より高温側では温度増加とともに単調に増加するする振る舞いを確認した。この熱伝導率の高温側の振る舞いは局在フォノンのホッピング伝導でよく再現できることを示した。この物質のゼーベック係数は全温度領域で負であることが分かった。その絶対値は温度上昇により、約30Kでフォノンドラッグによるピークを示したのち、緩やかに増加する。ゼーベック係数の温度依存性はフォノンドラッグ、3d電子の熱拡散、バリアブルレンジホッピングの寄与を考慮することで、広い温度範囲(5 < T < 300 K)で再現できることがわかった。最後にこれらの結果から、無次元性能指数ZTを求めたところ、300Kで0.01程度であることが分かった。 ②ホイスラー化合物Fe2VSiの比熱 Fe2VSiは常磁性的な磁気特性を示す。しかしその磁化率は40 K付近で小さな異常があることが知られている。この物質の比熱測定を行ったところ、40 K付近に相転移を示すような異常を見いだせないこと、またこの温度以下で磁化のゼロ磁場冷却と磁場中冷却で差がみられることから、低温スピングラス相の存在を指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は特に熱的・電気的輸送特性について調べた。装置の製作・調整、立ち上げを行い、スピングラス相を持つスピネル化合物CuCrTiS4の輸送特性を調べた。これまでにスピングラス系の熱的・電気的輸送特性について、詳しく調べられた例はあまりないことからその意義は大きいと思われる。これまで本研究で行ってきた、比熱・磁化といった測定と組み合わせることで今後のスピングラスの実験的研究へ広がりを持たせることが期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度製作した、輸送特性測定装置を用いることで、より広い視点からスピングラス系の研究が可能となった。製作した装置は、磁場を印加することが可能で、今後はスピングラスを示す物質の磁場中輸送得性、特にAT,GT転移が与える系への影響を調べていきたい。またさらに広い視点からAT, GTスピングラスが物理量に与える影響を調べるため、ホール効果および熱膨張係数測定装置を製作し、研究を進めていく。これまで本研究で得られた結果を総括するとともに今後の研究へと広げていく。
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