研究概要 |
1.スピンボール W72V30に対する模型のゼロ磁場比熱は3ピーク構造(ピーク温度は2,6,80K)を持つ。スピンギャップ(=19.2T=25.1K)を超えない範囲の磁場をかけ,比熱への影響を見たところ,概ね10K以下で磁場の影響が生じた。エントロピー計算によると,10Kで約800個の状態が残存する。ギャップ内シングレット状態の数は約80個なので,この約800個の状態は磁気的状態を含み,磁場依存性が生ずる。スピンギャップより低い温度で磁気的状態が残存するという現象はフラストレート系ではしばし見られるものである。そのほか,基底状態波動関数の理解の第一歩として,相関関数を計算しカゴメ格子(36サイト)と比較した。スピン相関の距離依存性,ダイマー相関のダイマー配置依存性ともに,カゴメ格子と類似した結果を得た。 2.フッ化ルビジウム銅スズ 中性子散乱実験で最低3重項励起エネルギーの磁場依存性にアップターンが見られている。これは数値対角化で定性的に再現できるものの,サイズ依存性を含むため,級数展開の実行が待たれる。今回,その実行を試みた。有効ハミルトニアンの計算には通常,"two-block orthogonal transformation"という変換を用いるが,DM相互作用の面内成分があると"multiblock orthogonal transformation"が必要となることがわかった。面内成分がない場合,前者の方法で8次までの計算がなされている。一方,後者は計算量が格段に多く,4次までの計算に留まり定量的結果は得られていない。 3.その他 非対称な次近接相互作用を持つXXZ鎖の比熱を密度行列繰り込み群の方法で調べ,エントロピー解放について議論した。また,ダイヤモンド階層格子上のイジング模型の磁化過程を厳密に計算し,階層格子固有の長距離性によって"悪魔の階段"の生じることを示した。
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