研究課題
研究目的は、固体物理学の重要な分野の1つの量子スピン系において、有限個のスピンからなるスピンクラスターが結合した0次元スピン系(スピンクラスター系)の磁気秩序の発現機構の解明に取り組むことである。量子スピン系の多様性の最大の要因は次元性である。現在までに3から1次元スピン系の磁気秩序の研究は進んでいるので、本研究の後では、全ての次元のスピン系の磁気秩序の描像が明確になることが期待される。平成23年度は、以下の4つの研究計画に取り組んだ。その結果を記載する。(23-1)スピン3/2ダイマー物質CrVMoO7の58Tまでの高磁場磁化測定を行った。予想に反して、1/3と2/3量子磁化プラトーが現れなかった。以前の予備的な中性子非弾性散乱測定では、ダイマーが起源だと思われる磁気励起(ダイマー励起)を観測しているので、全実験結果の整合性が取れるモデルを再検討中である。(23-2)スピン1/2テトラマー物質Cu2CdB2O6とスピン5/2トライマー物質SrMn3P4O14の中性子非弾性散乱測定を、日本原子力研究開発機構の研究用原子炉JRR-3の装置で行う予定であった。しかしながら、震災の影響で実験が出来なかった。(23-3)SrMn3P4O14の中性子回折測定の結果を解析し、スパイラル磁気構造を決めた。トライマー間の弱い相互作用も寄与し、磁気相互作用の間に競合が起こるためにスパイラル磁気構造が現れることが判った。論文、国際会議などで成果発表を行った。(23-4)圧力効果(元素置換)を行うために、CrVMoO7とCu2CdB2O6の元素置換をした試料を作製し、磁化測定を行った。結果を解析中である。
3: やや遅れている
上記のように(23-3)は達成した。一方、(23-2)は震災の影響で実験が出来なかった。(23-1)は予想外の結果が出たため理由を検討中である。(23-4)は試料作製に予定以上の時間がかかり、実験を行ったのみである。
当初の予定通り、中性子非弾性散乱測定、中性子回折測定、圧力効果(元素置換)、圧力効果(静水圧)、実験結果の考察を行う。なお、中性子非弾性散乱測定については、平成23年度に実施できなかった課題についても行いたい。
主な支出予定は、研究業務員雇用費904千円、外国旅費(磁性国際会議での研究成果発表)300千円、外国旅費(PSIでの実験)293千円、国内での中性子散乱実験のための費用137千円。なお、研究用原子炉JRR-3(もしくは大強度陽子加速器施設J-PARC)での中性子散乱測定装置が利用できることを前提としている。
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J. Phys.: Conference Series
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