研究課題/領域番号 |
23540397
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
桃井 勉 独立行政法人理化学研究所, 古崎物性理論研究室, 専任研究員 (80292499)
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キーワード | フラストレート磁性体 / 多重Q状態 / スピンネマティック秩序 / パイロクロア格子 / 三角格子 |
研究概要 |
1.フラストレートした磁性体における複数の波数状態の重ね合わせにより実現する多重Q状態を、希薄ボーズ気体の理論を用いて解析的に調べた。具体的に、三角格子上のJ1-J2模型およびJ1-J3模型を考え、面間相互作用を考慮して3次元から2次元へのクロスオーバーを調べた。飽和磁場近傍における有効エネルギーを漸近的に厳密に求め、エネルギー最小解を求めることから状態を決め、これらの模型の飽和磁場近傍における基底状態相図を得た。一つの波数状態だけに凝縮した状態に相当するスパイラル状態相の他に、2つの波数状態に同じ密度で凝縮した相が出現することが分かった。さらに、この状態には、全運動量が0の場合と、有限になる場合の2種類の相が存在する。前者はFAN相と呼ばれる共面的な状態である。後者は非共面的な状態であり、カイラル秩序が空間的にストライプ状に存在する。 2.パイロクロア反強磁性体であるスピネル型クロム化合物MCr2O4(M=Zn,Cd,Hg)における実験で観測された飽和磁場近傍の新奇な高磁場相を理解するために、パイロクロア格子上のS=3/2の双1次-双2次型スピン模型を、量子効果を考慮して調べた。飽和磁場におけるマグノン励起の解析から、古典スピン模型で得られる磁気相より高磁場領域において、量子効果によりマグノンが束縛対を形成することが分かった。その結果、古典模型で実現する層よりも高磁場に、量子的なスピンネマティック状態相が出現することを明らかにした。量子模型に対する磁場中の相図を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多重Q状態の研究成果は、3重Q状態の様な新奇な状態を見つけるという当初の目標とはやや違うものであるが、次元クロスオーバーに特異な振る舞いが起こるという非自明な振る舞いを発見し、面白い成果を上げた。 パイロクロア磁性体の研究は、ここ数年来の実験の未解明の問題に答えを与えるものである。興味深い結果が出てきており、スピンネマティック相の検証に向け今後のさらなる展開が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
パイロクロア磁性体における、高磁場新量子磁性相の特性を明らかにし、観測結果に対する理論を構築する。また、新たな新奇量子状態の探査を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
2011年度に震災の影響により、海外共同研究者の来日が減り、未使用額が発生した。2012年度以降はほぼ共同研究も元通りに回復したが、初年度の費用が年々繰り越されてきている。 海外共同研究者との共同研究を引き続き行う。海外からの共同研究者の招へいを行うと共 に、自ら海外に出張し、共同研究を進める予定である。 また、海外および国内に出張をし、成果発表と同時に、研究打ち合わせを行う。
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